乳がん生活:患者力:頼れるプロ

〈リンパ浮腫〉(2)基本ケア

〈乳がん〉の術後に起こり得る不調のひとつに〈リンパ浮腫〉があります。手術によりリンパ節切除やリンパ節郭清を施されたあと、時期や症状に個人差がありながらも誰にでも起こり得る不調です。

〈リンパ浮腫〉の基本ケア5つ

①圧迫
②挙上
③運動療法
④スキンケア
⑤医療徒手リンパドレナージュ

重要視すべき順に5つ並べました。それぞれ具体的にお話していきます。

①圧迫
浮腫には圧迫が効果的です。〈リンパ浮腫〉への圧迫をするツールは大きく2種類あります。
・包帯
・医療用弾性着衣

[包帯圧迫]
●メリット
サイズ適用の幅が広く、浮腫が不安定な時期に適したツールとなります。医療用弾性着衣にもサイズ展開がさまざまありますが、適切に〈リンパ浮腫〉へのケアを行っていけば、浮腫は落ち着きサイズダウンしていく傾向があります。それまでは包帯での圧迫をすることをオススメします。

複合的理学療法(MLD)といわれる〈リンパ浮腫〉へのケアを行ってくれる施術所では、多層包帯法といった〈リンパ浮腫〉に適した包帯法を教えてくれます。

●デメリット
片方の腕のみを使って包帯を巻かなくてはならないため、慣れるまでに練習が必要になります。

[医療用弾性着衣]
●メリット
〈リンパ浮腫〉のある腕や手に装着するだけなので、とても簡単に使用できます。昼用と夜用があり、用途による使い分けが可能です。メーカーの種類も複数あり、生地の素材感やサイズ感など選ぶことができます。

半年に2着までの保険適用が可能。保険適用にする場合には、医師からの医療用弾性着衣装着指示書と購入した領収書を提出する必要があります。加入している組合へご確認後に実行されるのを推奨します。

●デメリット
値段が高価であることと、水仕事を多くされる方は毎度着脱することなど濡れないようにする工夫が必要になります。

リンパ浮腫を発症してすぐは、状態が不安定であるためサイズ感がすぐに変化していくことがあります。急性期の浮腫が多い状態のサイズで購入してしまうとサイズがすぐに落ちて安定してきたときに再購入しなくてはなりません。

適切なケアを行えば必ず快方に向かいますので、状態に合わせて安定してきたころにご購入を検討されると金銭的負担が減らせます。

②挙上
リンパ浮腫の起きている部位を心臓より高い位置に持っていく方法です。リンパ管の構造は血管よりも脆く、重力に従って簡単に逆流してしまう特徴があります。そこで患部をなるべく心臓より高くすれば、逆流するリンパ液の量を現状より増やさない手助けになります。

③運動療法
リンパ液は、身体中の臓器や筋肉が活動したことにより生まれるものです。では、「なぜ運動なの?」と思われるかもしれませんが、これには理由があります。

リンパ液の流れは筋ポンプ作用によりほとんどがつくられています。筋ポンプ作用とは、筋が収縮と弛緩を繰り返すことでつくりだされるポンプのような動きのことです。リンパ管の収縮もこの筋ポンプに促されて起きているのです。

リンパ管にも神経系は備わっていますが、とても機能的に受動的です。血管のような自発的な収縮や弛緩をする能力はあまりなく、筋ポンプ作用に乗っかって収縮をしている状態です。筋ポンプ作用が起こる状態とは、つまり関節が動くような運動をすること。たとえば、
・肘を曲げ伸ばしする(肘の関節運動)
・肩回し運動をする(肩の関節運動)
・手をグーパーグーパーする(指の関節運動)
このような日常にありふれた動作も立派な運動です。

筋はひとつあるいはふたつの関節を跨いで付いているので、どこかの関節が動く、つまり何かしらの動作が生まれているときには必ず筋が収縮と弛緩をしている状態です。何も重いものを持ち上げたり、移動させたりしなくても、まずは自分自身の身体を動かすということが立派な運動のひとつとなり、リンパ液を流す手助けをしてくれるのです。

〈リンパ浮腫〉へのケアという意味での運動療法は、基本的に包帯や医療用弾性着衣による圧迫下での筋ポンプ作用を伴う関節運動であり、スポーツのような運動というよりはリハビリ的な基礎的な運動になります。

〈リンパ浮腫〉のある方への運動にはひとつ注意点があります。筋の活動があると、そこでまたリンパ液が生まれます。活動が多くなれば多くなるほど、また負荷が高くなればなるほど生まれるリンパ液の量も多くなり得ます。つまり〈リンパ浮腫〉のある状態では、運動量の調整が必要になるのです。

筋活動があるとリンパ液が生まれますが、筋活動によりリンパ液の流れは促進されます。前者より後者の効果が勝るような運動量の見極めが必要になりますので、まずは軽い運動から始めて、運動直後から翌日頃の浮腫の様子を見ながら段階的に運動量を増やしていけるとよいと思います。

しかし、〈リンパ浮腫〉だからといって運動を諦めないでほしいと私は思います。〈リンパ浮腫〉の特徴を理解して、適切なケアや患部の観察を続けていけば、スポーツのような運動もできることが増えていくと考えています

④スキンケア
〈リンパ浮腫〉があると、患部の皮膚の乾燥やターンオーバーの遅延が起こりやすく、皮膚が厚く硬くなりやすくなります。また浮腫により皮膚にしわが少ないような、皮膚が張っているような状態は傷つきやすく切れやすい状態のため、保湿化粧品などで皮膚を柔らかく保つ必要があります。

そこで、スキンケアが重要になってきます。保湿系の化粧品で低刺激であることを基本に選ばれると良いと思います。治療中の方はとくに、服用中の薬剤との相性で禁止される成分があるかを医師に確認しておくことをオススメします。一部の抗がん剤では摂取を控えた方がよい成分があるなどもあるため、確認しておき化粧品を選ぶときには必ず成分表示をよく見てからご購入されてください。

多くの方は必要であれば主治医から保湿剤が処方されると思いますが、もしも他に化粧品でお探しの際には成分表示にご注意を。薬局でご購入される場合は薬剤師に相談するのも確実な方法だと思います。皮膚からも経皮吸収はあり、実際に皮下の毛細血管に吸収されることが確認されています。

⑤医療徒手リンパドレナージ
〈リンパ浮腫〉への保存治療的アプローチのひとつが医療徒手リンパドレナージです。これはリンパ液の流れを手でのマッサージにより促し、滞りのある個所から流すべき場所へリンパ液を流すお手伝いをする方法です。

リンパ管は浅層と深層に流れるものがあり、深層のリンパ管の流れを手により促す必要がある場合、セルフケアでは難しいこともあります。〈リンパ浮腫〉が硬く、皮膚も硬くなってきている場合にはプロの手に頼ることもオススメします。

また、一度ドレナージでケア指導をお受けになると、お家でできることも教えてもらえたりします。「医療徒手リンパドレナージ」と検索するとインターネット上でも各地域の施術所や病院のリンパ外来などがヒットするので、ぜひ調べてみてください。

医療徒手リンパドレナージには、ボッダー式とフェルディ式がありますが、どちらも流派が違うだけで〈リンパ浮腫〉への施術には変わりありませんので、「リンパ浮腫への施術」ときちんと謳っている施術者のもとであれば問題ありません。

自分が辛いと感じることは正しい

以上、リンパ浮腫への基本ケア5つでした! 〈リンパ浮腫〉が疑われたら、まずその状態を自覚し考慮した上で日常生活を送ることが大切ですね。

自分が辛いと感じることは、誰がなんと言おうと正しいということを忘れないでください。もし病院で「その程度は大丈夫」と言われても、辛いものは辛い。必要ならばプロの手に頼って、リンパ浮腫への早期の適切なケアを始めてくださいね。

自分の感覚を信じて行動を始めたら、必ず自分を褒めてあげてください。いつだって正しいのは自分自身の心の声です。

続編の「リンパ浮腫のある方が運動をするときのポイント」もお楽しみに。

サポーター

平沼穂香
平沼穂香
フリー鍼灸マッサージ師/乳がんヨガ指導者。
女性がん経験者たちへの医療リンパドレナージ施術経験から、頑張る女性を応援したいという想いのもと、がん経験者へ安心で安全なリハビリの場・自分自身のための時間を設ける空間を提供するため、2021年4月に乳がんリハビリヨガ『BLUE ORGANIC SPACE』を開室。
将来はオーガニックホテル経営を含む、ライフスタイルの変革を提案するプロジェクト『BLUE ORGANIC LIFE』の設立を目指して活動中。

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