乳がん生活:患者力:頼れるプロ

〈乳がんサバイバーに運動を、もっと安全に〉
(3)上肢リンパ浮腫の予防と対策。どこでどのように?

〈乳がん〉でリンパ節郭清術を行うと、「上肢リンパ浮腫」というQOLに大きく関わる障害を生涯にわたって起こす可能性が残ることはよく知られています。放射線治療やタキサン系の抗がん剤によっても、リンパ浮腫の発症率は上昇します。これらの3つが重なると、さらに発症率は高くなります。リンパ浮腫の予防と対策には運動が勧められていますが、具体的に「どこで、どのような運動を行えばいいか」となると、考慮すべき点が幾つもあり単純ではありません。

どこで運動するの?

リンパ浮腫の予防運動は、病院内の理学療法施設で行うときっと安心でしょう。しかし、これには保険点数の問題が絡みます。そもそも健康保険では予防は考慮されておらず、基本的に疾病が起こってからが保険適応となります。予防目的では自主診療になります。

また、たとえリンパ浮腫を発症していても重症(ISL2期後期以降:がん診療ガイドラインによる)でないと、十分な保険診療を受けることができません。軽度では、保険診療で理学療法士の指導を受けることができないのです。それでも、リンパ浮腫はいったん発症すれば完治は難しく、QOLの低下は生涯続き、医療費の負担も軽視できません。

どんな運動?

リンパ浮腫予防の運動はセルフで行えるのでしょうか? 国立がんセンターのがん情報サイトによると、リンパ浮腫に対して本人や周りの人ができる工夫として、以下のように掲載されています。

●リンパ浮腫を早く見つける
●適度に体を動かして、リンパ液の流れを促す
●保湿などのスキンケアを行い、感染を予防する
●肥満を予防する
●体に負担をかけない

とてもざっくりと書かれていて、「これでリンパ浮腫を防げるの?」と不安に感じます。欧米ではリンパ浮腫に対する運動は、多くの場合、専門家の指導を受けます。2010年にJAMAで発表された研究では、適切な(低負荷からゆっくりと高負荷にする)ウエイトトレーニングがリンパ浮腫の予防対策として効果的であるとされ、既に欧米ではウエイトトレーニング(筋トレ)が導入されています。

それに対し日本では、まだ筋トレが予防のための運動として大きくクローズアップされていません。その理由の一つに、「がんサバイバーに対して適切な筋トレ指導ができる、がん治療のリスクを把握した専門家が少ない」という背景があります。また、国民的にジムの加入率の低さも関係してくるでしょう。がんサバイバーが安全に運動を行うためには、適切な筋トレの指導ができる専門家と、その指導を受けられる環境の整備が求められています。

サポーター

稲葉晃子
稲葉晃子
元全日本女子バレーボール選手。現役引退後は、全日本女子バレーやさまざまな競技団などで選手育成に従事。2012年、ロマージュ株式会社を設立。2017年、乳がん発症。左乳房全摘とリンパ郭清、抗がん剤、放射線治療、1年間の治験を終え、現在はがん専門エクササイズトレーナーとして運動指導を行いながら、オリンピックをめざす陸上選手の強化にも注力している。

資格:米国スポーツ医学会・米国がん協会認定Cancer Exercise Trainer / 米国NATA認定Athletic Trainer


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