乳がん生活:患者力:頼れるプロ

〈乳がんサバイバーに運動を、もっと安全に〉
(5)リスク管理は人任せにしない

適切な運動は、その問題となるリスクを低下させる

末梢神経障害やリンパ浮腫、そして心臓疾患など、サバイバーが運動をするには不安要素が幾つもあります。しかし、「適切な運動はその問題となるリスクを逆に下げる」ということが、多くのエビデンスで証明されています。2010年に発表された『ACSM Roundtable on Exercise Guidelines for Cancer Survivors』では、運動に関するエビデンスに高い評価がされました。

■A評価
膨大な無作為化比較試験から得られた一貫性のある非常に強固な結果
・運動の安全性(治療期間中および治療期間後)
・有酸素運動の効果(治療期間中および治療期間後)
・筋力トレーニングの効果(治療期間中および治療期間後)
・柔軟性の効果(治療期間後)
・リンパ浮腫への効果(治療期間後)

■B評価
一定量の無作為化比較試験から得られた、概ね一貫性のある結果
・体組成への効果(治療期間中および治療期間後)
・QOLへの効果(治療期間中および治療期間後)
・疲労感への効果(治療期間中および治療期間後)
・心理的効果(治療期間中および治療期間後)

自身の運動制限やリスクを運動指導者に直接伝える

がんサバイバーは、運動を行うに当たって個々に異なるリスクを抱えています。ここで鍵となるのは、「サバイバーの個々の治療や術式を理解し、適切にリスク管理された運動指導が受けられるかどうか」です。がん専門病院にあるリハビリ施設で理学療法士から指導を受けられれば良さそうですが、保険診療の制限もあり現実的ではありません。また、欧米のように、〈がん〉の術式や治療法の知識をもち、適切な運動指導が行える指導者が日本では少ないというのも実情です。

ではどうしたら良いのか。それは、サバイバー本人が自身の抱える運動制限やリスクを運動指導者に直接伝えることです。そうすることで、がんサバイバー専門の運動指導者でなくても、そのリスクを考慮した適切な運動法の組み立て・提供に結びつきます。

副作用や晩期障害に耳を傾け正しく伝えて、運動効果を高める

ここで大事なことは、サバイバー自身が自分の術式や治療法を理解し、それによって起こりうる副作用や後遺症を把握することです。がん治療は今後、ますます細分化され、オーダーメイドに近い治療になると予想されます。そうなると、副作用や晩期障害の組み合わせも複雑になります。サバイバーは、より敏感に自分の治療による副作用や晩期障害に耳を傾け、正しく理解し伝えることで運動効果を高めることができます。同時に、〈がん〉の術式や治療法の知識を備え、適切な運動指導が行える指導者の育成が急務であることは言うまでもありません。

サポーター

稲葉晃子
稲葉晃子
元全日本女子バレーボール選手。現役引退後は、全日本女子バレーやさまざまな競技団などで選手育成に従事。2012年、ロマージュ株式会社を設立。2017年、乳がん発症。左乳房全摘とリンパ郭清、抗がん剤、放射線治療、1年間の治験を終え、現在はがん専門エクササイズトレーナーとして運動指導を行いながら、オリンピックをめざす陸上選手の強化にも注力している。

資格:米国スポーツ医学会・米国がん協会認定Cancer Exercise Trainer / 米国NATA認定Athletic Trainer


プロフィール