自分らしく

みちくさと山の学校

ウォーキング

在宅勤務だとか三密回避だとかで、お店に行かない日が続く。居酒屋好きな私のような者でさえ自粛しているのだから、飲食店の経営は相当に大変なはずだ。さらに飲食店に食材を提供する生産者や流通業、物流業なども大変な窮地に追い込まれているのではなかろうか。新型コロナウィルスのための休業支援金や給付金は、生産者や関連業者には支給されるのだろうか。ここは、せめて故郷の魚介類でもお取り寄せして応援したいな…とか考えながら、家から3キロほど先の苗木屋さんまで歩いた。

私がここで仕入れるのは、主にプチトマトやゴーヤの苗だったり、チューリップの球根だったりする。小さい鉢植えの花は近所の花屋さんで販売しているものでも十分にかわいいのでここではほとんど買わない。「なにかいいものないかなあ」と一回りしているうちに、ラズベリーの苗木が目に留まった。細い苗木の首には花や実の写真が掛けてある。「ラズベリーといえば甘酸っぱいジャムだったり、タルトの上に敷き詰められているアレか? 『木苺』みたいなもんだよな、懐かしいな」と遠い昔の遠い故郷へ思いを馳せた。

山のなかの学校

実りの秋になると学校からの帰り道は田舎の少年少女の格好の遊び場だった。切通しの道の脇を奥に一歩入ると、あちこちに実のなる木があった。誰かが植えたものなのか自生なのかはともかく、子どもたちが採っても誰も咎める者もいない。男の子たちの一番のターゲットは、やはり紫色したアケビの実。スルスルと木に登る奴もいれば、先が二股に分かれた長い棒を蔓にひっかけてもぎ落す奴もいた。

木登りはやはり体力と経験と度胸がいるのでアケビは主に高学年の獲物だ。楕円形のずっしり重い紫色のアケビの実は、表面に縦の筋が入っている。熟したときに実がはぜて小鳥たちの餌になり、フンと一緒に遠方へ種まきしてもらうためだ。縦方向に軽く力を入れるとパクッと口をあけ、半透明な白い実が現れる。子どもたちは実を口いっぱいに頬ばると、くちゅくちゅと甘い汁を吸い尽くし、真黒な種をプププッと勢いよく吐き出す。

小さい子は比較的低木の桑の実や木苺取りに向いていた。今思えば衛生的にどうかなと思うが、赤や黄色の透き通った木苺の感触を唇の上で感触を楽しみ、口の中で噛むとほんのり甘い味がした。

「ただいまー、母ちゃん木苺とって来たよ」
「あれーどこで遊んできたの。そんなのはほこり被ってたり、虫ついて汚いから食っちゃだめだって言ってっぺ」
ほめられたり喜んでもらえたりするかと思った収穫は、反対にお目玉の対象になる。野球帽に半分ほど摘んできた木苺は行き場を失いかけたが、母親が水道の水で丁寧に洗ってくれて、無事口に運ぶことができた。

ベランダでみちくさ

あのころの通学路は新しい道ができたために閉鎖されて、本当の山道になったようだ。それよりも大震災の後、住む人も激減し、小学校も閉校になってしまった。もうみちくさを喰う子どもたちもいない。

「ヒデちゃん、連れて行ってよ」
と赤い木苺がこっちを見た。
「よおし」
と一番小さな苗木を持ち上げると
「オラも…」
と黄色い木苺がささやいたような…。実がなるのは夏から秋にかけてだろうか。今では副都心線沿いにある我が家の小さなベランダで、赤と黄色の木苺の苗木がオジサンのみちくさを待っている。

サポーター

伏見英敏
伏見英敏
1959年5月生まれ。
三陸食べる観光主宰/キャリアコンサルタント/日本健康太極拳協会準師範
人の話をじっくり聴くのが好き。そこに魚介類の肴と日本酒があれば、HAPPYです。

プロフィール