自分らしく

ジャンプ

ジャンプ

新しいセーラー服の中学生が
通勤ベテランの父親と
4月の改札を通る

ラッシュの時間で
早足の人々は魚の群れのようだ

じゃあ、と上げた父の手に
軽くハイタッチすると
少女はくるりと波の中に
飛びこんでいく

この間まで父のまわりで
水しぶきを上げていたのに

流れの中で見送る
父の時間が
少しだけ止まった

いくら電車を乗り換えても、目的地につけない……焦って戻って、また歩き出すのにどうしてもたどり着けない……

年に、何回かそんな夢を見ることがあります。そういう夢を見るのは、決まって何かに追われているときです。こんな朝は、そのまま起きるとクヨクヨしたままになってしまいそうなので、もう一度ふとんにもぐって目をつぶり、素晴らしいタイミングで電車を乗り継いで目的地に着く私を約1分で思い描くことにしています。すると、きっぱりと1日を踏み出すことができるのです。

さて、ラッシュ時間の通勤では、電車の乗り換えに迷いこそしませんが、ものすごい人混みを通過しないと次の電車にたどり着けません。最初の電車の改札を出ると、右からも左からも朝の人々が流れてきて、一瞬でも止まればたちまち誰かとぶつかりそうになります。まるで魚の群れがあちこちから流れてくるようです。通勤や通学に慣れていない人たちにとって、「4月のラッシュ時の乗り換えは、きっとストレスになるだろうなあ」と思います。

でも、こんな荒波でもスイスイと横切って上手に前進する人がいます。そういう大きめの魚をみつけて後ろをぴったり泳げば、私もスイスイと進めることを数年前に発見しました。こっそり「大きな魚みつけゲーム」と命名して、良い魚を見つけたときには「やったね」とつぶやきながら、後ろにぴったりついてスイスイと移動しています。自分の行きたいルートに沿って泳ぐ魚ばかりではないため、2尾目、3尾目と魚を換えながらついていくのもテクニックです。

このゲームを「誰かに教えてあげたいな」と思っていますが、皆さんもこんな歩き方を知っているかもしれませんね。

サポーター

みやもと おとめ
みやもと おとめ
詩人。
本業は体育大学・ダンス学科教員。大学生たちがダンスを好きになり、さらに自信をもって子どもたちにダンスを教えられる指導者として育つことを願い、教育と研究に取り組む。

プロフィール