自分らしく

僕を奮い立たせてくれた楽曲

「音霊」ってあるのかな

僕は、音楽を演奏するのも聴くのも大好きです。音楽には力があると思うからです。言霊という言葉があるように、音楽にも「音霊」というような力があるのかもしれません。悲しいとき、辛いとき、気が滅入るとき、いつもたくさんの「力」をもらい勇気づけられます。

勇気づけられる曲はたくさんありますが、今回ご紹介するのは超有名なベートーベンの〈ピアノソナタ第8番 ハ短調 作品13『悲愴』Grande Sonate pathetique〉です。第二楽章は通称 “ベートーベンのアダージョ・カンタービレ”と呼ばれ、世界中で愛されています。

折々に出会う『アダージョ』

17年前に父と兄が亡くなり、実家の会社を引き継ぎました。そのときに千葉の仕事と二足のワラジを履いて上手くやっていけるだろうかと、新幹線の座席で読書もままならないほどの不安を感じたものです。そんなとき、大阪の社長室にあるFMレシーバーから流れてきたのが『アダージョ』。穏やかな時間に勇気づけられました。

6年前、「くちびるに歌を」という映画が新垣結衣の主演で公開されました。書籍の方も感動しましたが、映画でも泣けました。そのなかで、ピアノを弾けなくなったピアニストである主人公が 教え子を勇気づけるために再びピアノを弾き始める…というシーンがあります。そのときに奏でる曲が『アダージョ』。涙が出ました。

コロナ禍の昨年、認知症医療の第一人者であった長谷川和夫医師が認知症になってしまった様子をNHKスペシャルで観ました。長谷川さんが奥様に大好きな曲をピアノで弾いてくれとリクエストします。その曲も『アダージョ』。温かいひとときを感じました。

今年のGWにYoutubeでアダージョを検索していると、昔ショパン奏者で有名だったピアニスト遠藤郁子さんの動画を発見しました。彼女の演奏する『アダージョ』はたどたどしく、彼女の身の上に何かあったのかなと思っていたら、動画の後半の彼女のトークでその理由が分かりました。彼女は40代で乳がんを患ってピアノや人生など全てを諦めたとのことでした。その一番つらい時期に勇気を与えてくれたのが、就寝時に頭上から聴こえてきた『アダージョ』だったそうです。感謝と歓喜の思いが伝わる演奏です。

▼遠藤郁子/ベートーヴェン 『悲愴』第2楽章
https://youtu.be/Dk_z57tonzk

なぜ『アダージョ』は勇気を与えてくれるのか

〈ピアノソナタ第8番 ハ短調 作品13『悲愴』第二楽章〉は難曲ではありません。ピアノソナタとしては簡単な部類だと思います。アンダンテよりゆっくりと歌うように演奏するこの曲には、軽やかに弾かれる主旋律の後ろで温かく包み込むように長く音をキープして響く低音部があります。連続する低音パターンには確固たる神の愛情を感じさせる温もりを僕は感じます。その辺りが旋律としての「勇気」の秘密かもしれません。

昨年はベートーベンの生誕250年でした。彼は20代後半で難聴になり始めました。つらくて悲しい日々。ピアニストから作曲家への転機だったのはそういう理由だと思いますが、彼にとってはまさしく忍耐と試練の時期だったと言わざるをえません。
彼のこの曲の楽譜には『悲愴大ソナタ』という題名が書かれていましたので、彼自身が自分の心に響き、自らを奮い立たせ、勇気を与える曲を欲していたのだと思います。

250年経った昨年と今年、人類は新型コロナの所為で「外出自粛」という忍耐を強いられました。いつまで続くのかと忍耐と試練のなかで、僕が『アダージョ』と再会したのは偶然ではないとあらためて感じます。

サポーター

福田正文
福田正文
1955年、羊年の山羊座生まれ。
2017年、大阪でコーヒー焙煎卸会社を経営。現在はマンションに建て替えて「悠々自適になる」つもりが、そうでもない状況。
千葉市在住。千葉ではパソコンメンテとWEBサイト制作会社を経営。
趣味はパソコンの組立&再生、ピアノとギターの演奏、読書。

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