自分らしく

恋する岩手旅〜(2)宮古市〜大槌町編

誰にでも、もう一度、話したい人がいます

内陸で岩手の心に触れた後は、三陸にある『風の電話』を訪れました。『風の電話』とは、2011年に岩手県大槌町在住のガーデンデザイナー・佐々木格氏が「死別した従兄弟ともう一度話したい」という思いから発案したものだそうです。自宅の庭に白い電話ボックスを設置し、ラインのつながっていない黒電話を置いたことが始まり。亡くなった人々ともう一度会話を交わしたいという思いから設置された電話ボックスには、東日本大震災以降、3万人にものぼる人々が訪れているそうです。

グリーフケアの場所であること、そもそも大槌で被災された方々のために設置された場所でもあるので、「私のような者が訪れてよいものだろうか」と長い間、自問自答していました。しかし、来春、「風の電話」をモチーフにした映画が公開されるそうなので、世間の話題に再び上がる前に行こうと決心しました。私にもずっと話したい人がいます。

『風の電話』は、佐々木氏のご自宅の敷地「ベルガーディア鯨山」内にあります。多くの人に門戸を開いている場所ですが、見学するには事前の予約が必要です。

この日の天気は不安定で、曇ったり小雨が降ったりしていました。でも、私が訪れたときは晴天に恵まれ、活き活きと育つ木々や花々が見事なたいへん美しい庭園の風景に出逢うことができました。小高い丘の上に立つ、白い電話ボックスと空の青さのコントラストが夢のように綺麗で、心ときめきます。

この日は、家人以外は誰もいなかったので、『風の電話』で心のなかの故人とゆっくり話すことができました。受話器を耳に当てると、小鳥のさえずりとともに、もう一度、話したい人の声が聴こえるような気がします。

命は、延々と紡がれていくのかもしれません

帰り際、大槌のコンビニエンスストア前の花壇に花が咲いているのを観ました。すっかり忘れていたのですが、その昔、ここで花を植えたことを思い出しました。植えた場所の正確な位置は忘れてしまったのですが、多分この辺りであろうと思う場所に、たくさんの花が咲いていました。私の植えた花はすっかり枯れてしまったのかもしれないし、咲いて実を結び、その子孫が咲いているのかもしれません。誰かが植えた花が元気に咲いているのかもしれません。

いずれにせよ、「この場所で命を紡ぎ、縁を紡いでいるのだ」と思うと、温かい気持ちになれたのでした。