乳がん生活:患者力:家族と友人

患者への接し方

がん闘病していた自分の家族への声のかけ方に迷う

周りの友人や知人、また職場の同僚などが〈がん〉を患っていることを知ったら、あなたはどうしますか? まずは驚き、戸惑い、「どう接したらいいのか分からない」というのが正直な気持ちではないでしょうか。自分が元気であればなおさら、「声をかけていいのか」「かけない方がいいのか」「かけるとしたらどうかけるのか」に迷う方は少なくないと思われます。 

私も自分が〈がん〉を発症する前は、父を肺がんで、祖父を直腸がんで亡くし、間近で彼らの何年もにわたる闘病生活を見てきたものの、接し方の正解もわからないまま過ごしていました。昔は〈がん〉は「不治の病」といわれていましたから、彼らを見るたびに「近いうちに死んでしまうのだろうか」「そんな人に何と声をかけたらいいのか」といった気持ちだったのかもしれません。

傷ついたり、壁があると感じたことも

自分が乳がん治療を始め、限られた友人知人には少しずつ話していったなかで、いろいろな反応を経験しました。驚いたことに、「実は私もサバイバー」という方が結構多くいらして、「2人に1人ががん患者」ということを実感したのです。

一方、友人の反応に傷ついたり壁があると感じたこともありました。抗がん剤治療の副作用で脱毛が始まりウイッグ着用して間もないころ、一緒に食事をしていた友人に「それウイッグよね」といわれたひと言。友人にしてみたら、「大丈夫よ」という意味合いだったのかもしれません。しかし、一番指摘されたくないこと、一番気にしていた時期だったこともあり、かなり落ち込みました。

また、仕事でコンサルティングの契約書を締結したばかりの会社の担当者に、「来週から抗がん剤治療を始めます。ご迷惑はおかけしないつもりですし、仕事は続けますので、どうぞよろしくお願いします」と伝えたその夜、一通のメールが届きました。内容は、「契約は一旦、見直したい」。「えっ。言わなきゃよかったのか」と後悔しました。

今、振り返ってみると、家族や近しい友人にがん患者がいなければ、こちら側の気持ちが分からなかったのだろうな、〈がん〉に関する情報不足だったのだろうな、と理解できるようになりましたが、当時は、なんとも言えない寂しい気持ちになりました。患者側の立場になって初めてわかることもあり、だからこそ、発信したり、お伝えしなくてはと強く思い立ったきっかけとなったわけです。

普段どおりがうれしい

「元気出して」「頑張って」「きっと治る」「前を向いて」など、よかれと思って声がけしてくれているのでしょう。患者としては十分頑張っているし、前向きになりたいと思っているけれど、将来への不安な気持ちと、副作用で気持ちがどんよりと落ち込む日々を過ごしているわけで、冷静に言葉を受け止められないこともあるのです。ましてや、治ると思っているときに「治るから大丈夫」と言われるとかえって心配になったりします。言葉の難しさを実感しました。

〈がん〉の程度や治療の状況、体調などは人それぞれです。何か気の利いた言葉をかけようとするより、まずは「本人が一番不安を感じている」という気持ちを受け止め、共感してもらえるだけでいいのかと思います。私は友人たちに「普段どおり」「いつもと同じ」に接してもらえることがうれしかったですね。

サポーター

緒方佳美
緒方佳美
外資系企業数社を経て退社。
その後、乳がん発症。トリプルネガティブと診断され、術前抗がん剤治療、部分摘出手術、放射線治療を経験。家族にもがん体験者あり。治療中から、がんと仕事の両立支援や、がん体験者のための支援活動を考える。乳がん体験者コーディネーター(BEC)認定。
2018年10月、株式会社オフィスオガタ設立(人材紹介・コンサルティング業)。
多様性を認める社会形成への貢献を意識し、東北支援活動、地元の景観まちづくりの会での活動を通じて地域とのつながりも大事にしている。

プロフィール