自分らしく

想庵にて〜文庫だより 小村雪岱

友が集う月次文庫の会

『想庵にて~2019.秋~』の項にも書きましたが、想庵では月に一度ささやかな文庫を開いています。時々、古書店に出してはいますが、本好きなもので、気がつくと家には本がたくさん。どれも私にとっては愛着のあるすばらしいものです。「この本たちがもっといろいろな人の目に触れ、楽しんでもらえたら…」という思いから、文庫を開くことを思いつきました。

毎回テーマを決め、それに合った本を座敷に並べています。終わりの30分くらいは感想を語り合う時間。思いもかけない視点や広がりが出てきて、楽しいのと同時に学ぶところもたくさんです。文庫といっても私の個人持ちの本ですから、たかが知れていますし、集まるのも数人の友人たち。本当にささやかなものです。でも、本が与えてくれる世界の広さ、深さといったら、もう言葉では尽くせないくらいです。そこに参加した皆さんの感想が重なるのですから…!

そんな想庵での文庫についてこの欄をお借りしてご紹介させていただきます。

小村雪岱

小村雪岱(こむら せったい)という人をご存知でしょうか? 大正から昭和にかけて、挿絵や本の装丁、歌舞伎などの舞台美術に大活躍した画家です。江戸情緒をたっぷりと表現しながらも、そのデザイン性は現代を通り越して未来的とも言えるような大胆でクールなもの。誰もいない空間や、一見温かみを感じられない無表情な美人に、なぜか胸が締めつけられるような気持ちを抑えることができなくなります。

泉鏡花の『日本橋』という本の復刻版を手に入れたのですが、表紙・見開き・活字から箱まで、小村雪岱の装丁の素晴らしさに、物としての本の価値をしみじみと感じました。色の入っているものの魅力は言うまでもありませんが、新聞小説の挿絵では黒と白、そして線だけの描写で、江戸の情感を十二分に表していて、もう溜息しか出ません。また、美術作品だけでなく、彼自身の言葉や文章、彼の周りの人達からの評判からも魅力的な人柄が伝わってきます。

こんな本、並べました

文庫では、前述の泉鏡花の『日本橋』の他に、以下の本を並べました。
・『日本橋檜物町』 小村雪岱著 中公文庫
・『小村雪岱随筆集』 真田幸治編 幻戯書房
・『小村雪岱』 星川清司著 平凡社
・『小村雪岱 物語る意匠』 埼玉県立近代美術館監修 東京美術
・『意匠の天才 小村雪岱』 原田治・平田雅樹・山下裕二ほか 新潮社
・『Komura Settai』 デザインエクスチェンジ株式会社
・『版画芸術』 №146 2009冬号 阿部出版
・『芸術慎重』 2010.2月号 新潮社

この文庫で初めて小村雪岱を知ったという人が多かったのですが、皆さん小村雪岱の世界に感心されていたようです。

サポーター

みうら ゆきこ
みうら ゆきこ
東京都出身。
〈がん〉発症を機に、都内の病院内がん患者サロンの立ち上げ・運営に関わる。
その後、同院内に『がん情報センター』が開設されたので、それまで勤務していた高校教諭の職を離れ、がん情報ナビゲーターとして病院に勤務(2022年3月まで)。
現在は、若い頃から親しんできた日本舞踊、江戸小唄、古典文学をはじめとした日本の伝統文化を紹介、楽しむ場『想庵』を運営。

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