自分らしく

想庵にて〜2022. 夏

源氏物語 読み比べ

月一回、想庵では『源氏物語 読み比べ』というワークショップを開催しています。いろいろな作家による現代語訳の『源氏物語』を持ち寄り、どんな言葉で表現されているのかを読み比べ、あれこれ感想を言い合う会です。

谷崎潤一郎、与謝野晶子、円地文子、瀬戸内寂聴、林望、角田光代などなど。橋本治の『窯変源氏物語』が登場したこともあります。それぞれの作家の個性はもちろん、生きた時代の特徴もわかり、なかなか興味深いものです。

言葉への思い

そもそもこの企画を思いついたのは、ここ数年、言葉についての思いが募ってきたから。人は自分の感じたこと、考えたことを言葉によって表現します。でも、「はじめに言葉ありき」という語句があるように人と言葉の関係はとても深く、言葉は単に伝達ツールとしての役目だけを担っているのではありません。豊かな言葉の世界は、海のように深く、空のように広がっています。豊かな言葉を使うことにより、人生も豊かになっていくのです。

それなのに…。気がつくと私の語彙はどんどん貧弱になってきていたのです。子どものころ、大人たちが使っていた麗しくもかっこいい言葉は使いこなせないままどんどん忘れ、今の社会が編み出すおびただしい数の新語にはついていけず、情けないことこの上ない状態です。

豊かな言葉の世界

そこで思いついたのが、『源氏物語 読み比べ』です。紫式部の書いた世界を作家の皆さまはご自分の言葉で、どのように表現しているのだろう。ひとつの言葉がさまざまに言い換えられ、そのひとつひとつに言葉のもつ世界が広がっているのが感じられます。

たとえば、光源氏が清涼殿の前庭で青海波の舞を披露するときの空の様子。こんなふうに書かれています。

「入りかたの日が鮮やかにさしていますのに」(谷崎潤一郎)
「今しも西の空に入ろうとしている夕日の光鮮やかな中に」(円地文子)
「折から落日のはなやかな陽光が鮮やかに射しそめた中に」(瀬戸内寂聴)

それぞれの言い回しに感心するばかりです。ワークショップに参加した方々からは、次のような楽しい感想が発表されています。

「入りかたの日、はもちろん落日っていうのもいいねぇ」
「こんな風に言うと美しいね。私だったら西日で終わらせるところ」
「ああ、この言葉、昔はよく使っていたようだけど、今はほとんど忘れられている」
「この言葉、使ってみたい」

そして、これはオマケですが。
『源氏物語』って、光源氏っていうカッコイイ男の恋の話でしょ。などと、まことに大雑把にわかったつもりになっていませんか。日本が誇る古典文学のストーリーを細かく知っていくことができるのです。皆さん、オススメですよ。

サポーター

みうら ゆきこ
みうら ゆきこ
東京都出身。
〈がん〉発症を機に、都内の病院内がん患者サロンの立ち上げ・運営に関わる。
その後、同院内に『がん情報センター』が開設されたので、それまで勤務していた高校教諭の職を離れ、がん情報ナビゲーターとして病院に勤務(2022年3月まで)。
現在は、若い頃から親しんできた日本舞踊、江戸小唄、古典文学をはじめとした日本の伝統文化を紹介、楽しむ場『想庵』を運営。

プロフィール