自分らしく

犬との暮らし(3)

外出するのも大変

「分離不安症」傾向を増幅させないために、ホームズとの暮らしでは留守番時間をなるべくつくらないということを重要なポイントにしていました。生活をしていれば当然のことながら、夫婦で外出しなければならないことがありますが、同時に家を出た場合、長時間吠え続け、近所からクレームが出るということもあり、夫婦共に外出しなければならないときには「ちょっと出かけてくるね」や「お留守番しててね」などの声はかけずに、静かに時間差で家を出て途中で待ち合わせるという工夫が必要でした。

不思議なことに、出勤前の「お仕事行ってくるね」という声かけには、わかっているのか「あ~。そう。稼いできてね」 とでも言いたそうな様子でした。過剰な反応はあまり見られないので、一度夫婦で外出するときに「お仕事行ってくるね」パターンを使ってみたのですが、まさしく動物的な直観か、なぜかそれは方便だとわかるようで、全く通じませんでした。

笑う犬がそこに

ある日のこと。その日は役所や銀行などを回りつつ、たまっていた複数の用事を済ませるために休みを取っていました。掃除・洗濯などひととおりの家事を済ませてホームズに気づかれないように静かに家を出て、数分経ったときでした。何やら私の後方から、「あーっ」「あれっ??」という、ざわざわとした声が聞こえたと思ったら、大きめの犬がスタスタと私を追い越して目の前に回り込んできたではないですか。うちのコによく似た犬だなぁと思いましたが、そのときはこれから済ませなければならない用事で意識が取られていたため、何が起きているのか咄嗟には理解できませんでした。でも目の前の犬は「お母さん!! 僕だよ!! 」と言っているように、私を見つめています。 紛れもなく、それは私を追いかけてきたホームズだったのです。

思いがけない出来事

私の不注意が原因なのですが、閉めたはずの門扉からホームズが出て私を追いかけてきていました。慌てて捕まえようとすると嬉しそうに逃げていきます。首輪もリードもない状態で、身体のどこかを捕まえることもできません。追いかけると逃げるので、私が逃げるふりをして彼が私を追わせるように仕向け、何とか家までたどりつきました。住宅街で比較的車の往来は少ないものの、「車に轢かれたらどうしよう」「歩行者に迷惑がかかったらどうしよう」「何かあったら、一生罪悪感を抱えていくことになるのだなあ」と思い、心臓が飛び出すような気持ちでした。

一緒に生活をする家族との限られた世界のなかで、彼らの愛情はその世界にのみ向いています。置いていかれたのかもしれないと思い、必死に門扉を開けて追いかけてきたのだと思うと、申し訳ない気持ちと私の甘さを痛感した出来事でした。

サポーター

ひらい まさよ
ひらい まさよ
アクセサリー作家。
子どもの頃から「装う」ことに興味津々。外資系企業勤務のかたわら、全身のコーディネートに欠かせないアクセサリーづくりを独学で始める。大人ならではの装いのアクセントでありつつ、気負わずにさらりと気軽に身に着けられるアイテムづくりを目指す。
被爆者であった父の悪性リンパ腫、大腸がんの10年以上にも及ぶ闘病に寄り添い、夫をも膵臓がんで失うという経験をもつ。

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