自分らしく

紅の羅針盤

紅の羅針盤

もみじが
ひと葉 ひと葉
自分の一瞬をさだめて
空からそっとダイブする

着地点を探しながら
くるり くるり
方向をきめたら
迷わずに地球まで

10年ほど前に、クヌギの実を植木鉢に埋めたことがありました。芽が出て枝を伸ばして、たった15センチくらいの枝なのに、ちゃんと数枚の葉をつけました。秋になったら渋く茶色にかわって、「部屋のなかでも紅葉するんだ」と、ちょっと興奮しました。しかし、公園のカエデや、街を明るくしてくれたイチョウが葉を落としてしまうと、私のクヌギも一枚ずつ葉を落として、とうとう細い枝だけになってしまいました。

「寂しいことこの上ない」と嘆いていたら、友だちの理科の先生が教えてくれました。
「寒い季節に葉を保っていくのは植物にとっても大変なこと。落葉した方がらくよー」

おやじギャグに思わず笑いましたが、紅葉した葉たちは自分の生まれてきた木のために、それぞれのよいタイミングで自らを切り離していくのですね。感心していると、友だちはさらに教えてくれました。
「落葉したら、来春の若葉の芽吹きが楽しみ。まもなく冬芽が出てくるし」

なるほど確かに。辛いなら脱ぎ捨てて、でも放りっぱなしではなく降参するのでもなく、ちゃんと次のこと準備している木々。人間も何だか大変になってきたときには、美しく色づいた葉を回りに落として楽になったら、また新しいこと生み出せるのかもしれません。

サポーター

みやもと おとめ
みやもと おとめ
詩人。
本業は体育大学・ダンス学科教員。大学生たちがダンスを好きになり、さらに自信をもって子どもたちにダンスを教えられる指導者として育つことを願い、教育と研究に取り組む。

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