自分らしく

読書

読書

冷房の効いた
電車にとびのって
一息

目の前に座っている女性が
背筋を伸ばして
文庫本を読んでいました

街中が暑かった事を
ふと忘れるような
たたずまい

使い古された
デニム地のブックカバーまで
どこかうらやましく

※初出『やさしい出会い』 たんぽぽ出版 2018年

最近、電子ブックを愛用しています。軽い文庫本サイズの電子ブックには、購入した本をどんどん入れることができるため、まるで自分の家の本棚を持ち歩いているかのようです。もしその電子ブックを忘れても、スマフォにソフトを入れれば、読み進めたページから開いてもくれます。文字の大きさも変えられるので助かります。

長い小説などで、「あ、あのシーンのセリフに伏線があったはず…」とか、「えーと、主人公の高校時代の親友って誰と誰だっけ」など、パラパラページを戻って探したくなります。そんな場合は、紙の本の方がずっと勝手がいいのですが、家でも通勤でも荷物を減らしたい私は、つい電子書籍の方を選んでしまいます。

行き帰りの電車で読んで最近面白かったのは、古市憲寿『10分で名著』でした。NHKの講座『100分de名著』は、古今東西の名著を25分ずつ4回でその本の最高の案内人が解説してくれるシリーズでしたが、それのパロディなのでしょうか。もちろん似たところもありますが、本書は12冊の「名著」や「古典」について、その本と人生をかけて向き合ってきたプロに、古市さんが読みどころや読み方を聞いてきたという体裁です。

ダンテの『神曲』からスタート、紫式部の『源氏物語』、プルーストの『失われた時を求めて』、アインシュタインの『相対性理論』と続き、『古事記』や『資本論』まで登場。通勤中に10分ずつで読める軽快な対談は、名著それぞれのイメージがわいてくるわくわくする内容でした。

最近、これは電子書籍では絶対無理、という文庫も読みました。小川糸さんの『ツバキ文具店』です。友人との会話にその書名が出てきたときに、早速私も読もうと思って検索しましたが、紙の本しかありませんでした。鎌倉で手紙の代書を仕事にしている鳩子という女性が主人公です。

お客さんたちは「逆恨みされずに借金を断る手紙を書いてくれ」とか「亡くなった父親が天国から母親に届ける手紙を書いてほしい」とか代書を頼みに来ます。そして鳩子は、悩みつつもそれぞれの依頼人の心に寄り添って手紙を代筆します。鳩子がしたためた手紙の直筆(のコピーですが)がその文庫本に掲載されています。手紙の文章も練られたものですが、目的によって使用する筆記具も筆跡も全く異なっていて、感動を覚えました。

そして、「結ばれなかった幼なじみに、自分が元気でいることを女性の文字で書いてほしい」という、男性からの依頼に応えるために鳩子が選んだガラスペンと色インクがほしくなり、先日ついに買ってしまいました。そのカリカリと響く小さな音を楽しみながら、本を紹介してくれた友人に手紙を書きました。

サポーター

みやもと おとめ
みやもと おとめ
詩人。
本業は体育大学・ダンス学科教員。大学生たちがダンスを好きになり、さらに自信をもって子どもたちにダンスを教えられる指導者として育つことを願い、教育と研究に取り組む。

プロフィール