自分らしく
〈絵本は心のお薬〉(12)『むれ』

絵本は子どものために書かれたものですが、大人にもいいものです。心に響いたり、深い気づきがあったり、忘れていた思い出がよみがえったり…。大人の心に効く絵本を、絵本専門士で絵本セラピストの大江美保子がお届けします。
世の中にはいろんな『むれ』がある。そんないろんな群れを描いた絵本
羊の群れ。そのなかに一匹だけ毛のない羊がいます。
キリンの群れ。そのなかに一匹だけ首の短いキリンがいます。
魚の群れ。そのなかに一匹だけ骨の魚がいます。
どんどん絵が細かくなってきて、だんだん見つけることが難しくなってきます。
透明人間の群れ。そのなかに、一人だけ透明ではない人間がいます。そう…一人の人間だけが描かれています。ということは、描かれていないところに、『群れ』が描かれているのです。何?? この違和感!!!
そのページから、ちょっと雰囲気が変わってきたように思います。いろんな群れが描かれているのですが、「これが本当に正解なのだろうか?」と、深く考えさせられるのです。
例えば…雨の群れ。そのなかに一粒だけだれかの涙です。そんなページがあります。どれだろう…と悩みます。一粒だけ色のない雨があるので、「これかな?」とは思うのですが、正解かどうかはわかりません。そんな正解か不正解かが不確かなページが続きます。
そして、ラストは…ごくありふれた蟻の群れなのですが、一匹だけ違う方向を向いている蟻がいます。蟻は、そのまま皆んなとはちがう方向へ進んでいきます。進んでいった先で出会った物。それは、今まで見たことのない奇妙な蟻たちの群れでした。そして、そのページにはこう書いてあるのです。「蟻の群れです。みんなちがいます」
改めて、「群れ」ってなんだろう? 個性ってなんだろう? そんなことを感じる絵本です。
効能
自分はどんな群れのなかにいるのだろう。群れのなかで自分はどんな存在なんだろう。群れるのもいいけど、違う方向に進むとまた、違う群れと出会えるのかもしれない。そもそも、群れのなかにいても、それぞれみんな違う存在なんだ。
そんな今の自分の立ち位置や、環境が、俯瞰して見えてきます。自分を振り返る効能がある絵本です。
▼むれ
作:ひろたあきら
発売:角川書店
https://www.kadokawa.co.jp/product/321807000493/
サポーター

- 絵本セラピスト®︎/心理カウンセラー
プログラマー、シナリオライターなどを経て、3人の子育て中に絵本の読み聞かせのボランティアを始める。
2015年6月、乳がんの宣告を受け絶望のどん底に突き落とされる。そのとき、何気なく手にした一冊の絵本『でこちゃん』(つちだのぶこ作/絵 PHP出版)から深い「気づき」を受ける。絵本が大人に与える力に感銘し、その体験から『絵本セラピスト®️』となり活動開始。
病院や患者の会、子育てサロン、カフェにて大人の人に絵本を届けるセミナーを毎月開催。
エッセー風の絵本紹介ブログ、メルマガを毎日更新している。
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