自分らしく
ムンクと隠れた名盤
オスロで見た名画『叫び』
かなり前のことですが、ノルウェーのオスロへ出張を命じられたときのこと。かならず行きたいと思ったのは、ムンクの『叫び』を見ることでした。
『叫び』はノルウェーの画家エドヴァルド・ムンク(1863〜1944)の代表作であり、もっとも有名で人気の高い西洋絵画の一枚といえます。何かを叫んでいるような人物の表情と、不穏に渦巻く空模様のインパクトに魅せらるのは私だけではないはずです。
はたして訪れた美術館(オスロ国立美術館)には、あのモチーフのいくつもの習作が展示されていました。ムンクは何度も書き直しを重ねて、29歳ごろに発表した名画です。
あの人物はムンク自身であり、叫んでいるのではなく耳をふさいでいるのだそうです。作品名は当初『絶望」だったという説もあります。家族の度重なる不幸や自身の精神的な苦悩にさいなまれる自画像の一枚とも評されています。鑑賞後も魅力は倍増して、少なくともオスロに滞在中は、あの表情が頭から離れなくなりました。
ヨーロッパ・ロックの隠れた名盤
そんなオスロでのハプニングですが、予約していたはずのホテルにチェックインをしようとしたところ、「予約はない」と告げられて途方にくれました。そのときあの表情がうかんだのはいうまでもありません。結果として、現地の取引先の社長の好意で、彼の自宅に泊めてもらえることになり安堵しました。
そのとき、彼の息子さんと音楽好き同士で話がはずみ、聴いてごらんと紹介されたのが、スコットランド出身の3人組ロック・バンド、ブルー・ナイルの『A Walk Across The Rooftops』(1984)というアルバムでした。シンセサイザーによる冷たい空気感が、北欧のオスロの景色にかさなる音楽でした。
ヨーロッパのロックを好むファンのあいだでは、“隠れた名盤”との声もあります。今でも聴くたびにクールなサウンドとボーカルにひかれますが、なによりも、例の表情を思い出すのはわたしだけかもしれません。
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