自分らしく
〈ペットの話〉(2)勇猛果敢だったリリー
子犬のころに「いじめられた経験」を大人になってもしっかり記憶
前回、コリーのロロの話からずいぶん間が空いてしまいました。ロロの後に覚えているのがリリーという犬で、『ケアーンテリア』というスコットランド原産の長毛で小型の猟犬です。テリアの原種に近いそうで、最近日本ではあまり見ることはありませんね。賢くて忠誠心が強い反面、頑固なところもあり、もともと狩猟犬であったので勇猛果敢な性格をもつといわれています。そういえばリリーも、かなり気が強い雌でした。
リリーがうちに来たのは私が小学校に入学してからのことで、既に大型犬のコリー、ロロとの生活を経験済みだった私は小さな子犬のリリーがとてもかわいく感じ、すぐに大の仲良しになりました。
幼稚園入園前でいたずら盛りの双子の弟たちもリリーが大好きだったのだけれど、かわいがり方が分からなかったのか、とにかく荒っぽい遊び方で虐待すれすれの扱い。本当に小さいころはやられっぱなしだったリリーも、大きくなるにつれ弟に歯向かい始めて、とうとう敵対するようになりました。賢い犬だったので、子犬のころに「いじめられた」経験を大人になってもしっかり覚えていたようです。
そうして大人になったリリーは弟たちに対して、一応敬意は表しつつも決して心を許しません。私のことはだーい好きなので、私が学校から帰ったときなどジャンプして踊りながらしっぽを振るという、ものすごい歓迎ぶりでした。でも、食事のときに弟が近づこうものなら、牙むき出しのものすごい形相で攻撃します。一度、リリーが餌を食べているときに私が後ろを通ると、弟と間違えて噛みつこうとしたことがありましたが、すぐに私と気づいて「キューン」と泣いて謝りました。それもとてもかわいかったです。
リリーの小屋に一緒に入って、涙をなめてもらうことも
私の実家では、犬は必ず外で飼っていました。動物好きで器用な父が日曜大工でしっかりしたおしゃれな犬小屋を作って、「リリー」と表札も作った記憶があります。いつも鎖でつながれていて不自由なので、一日2回の散歩が何よりの楽しみです。私と行くのが一番うれしそうでしたが、弟とも仲良くしてほしいと思い、ときどき弟にリードを持たせました。リリーは散歩に行くのが嬉しくはあるけれど、弟と一緒なのがちょっと迷惑そうで複雑な感じでしたね。
気の強いリリーは好き嫌いもはっきりしていたようで、私と両親のことは大好きで愛情表現も熱烈でしたが、その代わり弟たちや気に入らない近所のおじさんなどには強烈な敵対心を見せました。もともとキツネ狩りのための猟犬で、逃げるキツネを吠えながら追いかけて飼い主にその方向を報せる役目を担った犬種なので、とてもよく吠えます。近所迷惑だったと思います。雷にも吠えるし、近くで花火大会があった夜など花火が上がっている間ずっと吠え続けて、翌朝声が出なくなっていたこともありました。
小学校に入ったばかりの私は「第一次反抗期」というのでしょうか、親に叱られると素直に謝れず、泣きながら拗ねることがしばしばありました。そういうとき、大きめに作ってあったリリーの小屋に一緒に入るのです。ちょっと窮屈でしたが私とぴったり身を寄せて小屋のなかに入るリリーはとても嬉しそうで、それが私にとっては大きな慰めになりました。泣き虫の私はそうしてよくリリーに涙をなめてもらいました。当時から50年以上過ぎた今でも、悲しいときにリリーに寄り添ってもらいたいと思うくらい、その感触を覚えています。
物心ついてから還暦を過ぎた今までの人生で、ペットがいない生活は少なかったと思います。犬、猫、鳥、ハムスターなど、いろいろな生き物と暮らしてきて、それぞれに思い出がありますが、リリーは特別なペットのひとり、いや一匹です。
サポーター
- 青年海外協力隊で、在フィリピンインドシナ難民センターに2年在勤。外資系ブランド日本法人での事業立上や再編など、さまざまなプロジェクトに携わり、2012年から2017年末までビクトリノックスジャパン株式会社代表取締役。2018 年、スイス機械式時計ブランドOrisの日本法人を立上げ。現在、オリスジャパン株式会社代表取締役、在日スイス商工会議所役員・日本プレイワーク協会理事、大学や自治体などでの講演や執筆なども手がける。
プロフィール
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