自分らしく

日曜の朝

日曜の朝

野球少年の背中で
斜めにかかった
バット

踏みしめるペダルの
リズムに合わせて
くいっ くいっ くいっ と
揺れている

少年の想像の中で
今日のバットは
カキーンと
鳴っているに違いない

高校1年生で、たまたま隣の席になった彼は無口で仲間とあまり群れない人でした。数学が神のようにできて、難しい本を読んでいました。私はどちらかというと友だちとわいわい騒ぐ方で、数学は嫌いだし、本は物語ばかりを読んでいました。

彼の、周りにいる誰とも違う繊細な感じに惹かれて話をするようになり、やがてときどき駅まで一緒に帰るようになりました。ある日、中学時代は野球部にいたと聞き、軽い気持ちで「運動部に入ったら」と勧めたことがありました。次の日「思うにぼくは、運動部には合わないんだな…」という返事をもらいました。

今もときどき思います。中学のころは、どんな野球少年だったのだろう。そして、一応一晩考えてみたけれど、運動部の環境にもう一度入っていこうと思わなかった彼の気持ちにもう少し寄り添えたらよかったのではないかと。

「高校生男子なら、スポーツが得意で、元気で、明るくて、強くいてほしい」というような、今ならアンコンシャスバイアスとも言える無意識な期待があったのかもしれません。本当は、それとは少し違ったところをもっていた彼に惹かれていたのに。

野球のユニフォームを着て日曜日に練習に出かける少年を見ると、「がんばれー!」という応援の気持ちとともに、高校時代のあの会話を思い出して少し切ない気分になるのでした。

サポーター

みやもと おとめ
みやもと おとめ
詩人。
本業は体育大学・ダンス学科教員。大学生たちがダンスを好きになり、さらに自信をもって子どもたちにダンスを教えられる指導者として育つことを願い、教育と研究に取り組む。

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