自分らしく

桜満開

2月の木立

ウェブの交差点
SNSの中で
友だちの桜
友だちの友だちの桜
次々に咲き出した

谷中の
目黒川の
六義園の
江戸川橋の
井の頭公園の
飛鳥山公園の
小石川植物園の

となりの家の庭の
うちのマンションの

今日はスクロールしても
スクロールしても
桜色

桜を歌ったJ-POPには、別れ、卒業、希望、恋、未来、旅立ちのようなキーワードと結びついて素敵な楽曲がたくさんあります。桜が満開になると、ついさびの部分を口ずさんでしまうのは、森山直太朗の『桜(独唱)』、スピッツの『チェリー』、福山雅治の『桜坂』などでしょうか。他にも、懐かしい気持ちになるいきものがかりの『SAKURA』、うまく歌えないけれどかっこいいエレファントカシマシの『桜の花、舞い上がる道を』、なぜか涙が出てしまうアンジェラ・アキの『サクラ色』、途中のラップで気分が上がる『ケツメイシ』…もっともっとあります。

こんなにたくさんあっても、まだまだ桜に託す想いに果てはないのでしょう、今年もサザンオールスターズが、『桜、ひらり』をリリースしました。突然起きた過去の深い悲しみをかかえているままでも、未来に希望が生まれてくるような明るく軽快な曲調と歌詞です。最近何度も繰り返して聞いています。

満開の桜並木を求めて、お花見をしたり散歩をしたりしことは、これまでの人生のなかで数知れず、その時々の家族や友人の表情やちょっとした会話が思いうかびます。桜を歌った歌詞のシチュエーションと重なる、震えるほど哀しいシーンもあればつい微笑んでしまう面白いシーンも、きりなく挙げられる気がします。今年も日本列島の桜前線の北上とともに、多くのみなさんが、それぞれの過去と現在と未来の想いを桜の花に重ねる時間が生まれるのではないでしょうか。

ところで、人々の目を奪い、しばらくのあいだ街を賑やかにしていた花をすべて見送った後で、桜の木からまだ何かが降ってくることに気づきました。その様子を詩に書いてみたところ、「桜蕊…さくらしべ…と言うのですよ」と、教えてくださった方がいました。その方の優しい声のような春の空気のなかで、さくらしべは風もないのに枝を離れて、くれない色にふりつもっていくのです。木の上で花たちをやわらかく受け止めていた形のままで、まるで時が静かに重なっていくように。

サポーター

みやもと おとめ
みやもと おとめ
詩人。
本業は体育大学・ダンス学科教員。大学生たちがダンスを好きになり、さらに自信をもって子どもたちにダンスを教えられる指導者として育つことを願い、教育と研究に取り組む。

プロフィール