自分らしく
〈絵本は心のお薬〉(10)『おかめ ひょっとこ』
絵本は子どものために書かれたものですが、大人にもいいものです。心に響いたり、深い気づきがあったり、忘れていた思い出がよみがえったり…。大人の心に効く絵本を、絵本専門士で絵本セラピストの大江美保子がお届けします。
「おかめ」と「ひょっとこ」のお面
今日、ご紹介する絵本は「みね」という貧しい村に生まれた88歳の女性の生き方を描いたものです。絵本でありながら、一本のドキュメンタリー映画を見たような感覚になれます。
みねの両親は、仕事の合間に「おかめ」と「ひょっとこ」のお面をみねに作りました。みねは、初めて自分だけにできたことに大喜びします。
変わらない貧しい暮らしのまま大人になりますが、嫁いだ先は、もっと貧しい村でした。貧しい暮らしのなか、みねはたくさんの子宝に恵まれますが、貧しさはさらにひどくなるばかり、夫も57歳でなくしてしまいます。そんな暮らしのなかで辛いことがあると、いつも、みねは両親からもらった「おかめ」のお面をかぶり、「あらよ、そらよ」と踊ります。
貧しい村には鬼が来るという
鬼とは…貧しさ、飢、病、死、老いなど。どうしようもない鬼がやってきたとき、みねは「おかめ」のお面をかぶり踊ります。「おかめ」のお面はひょうきんな笑顔。でも、その下にはみねの涙が隠れています。
そんな みねも今は88歳。たくさんの親類が集まり、喜寿のお祝いが開かれます。みねは、まるで「おかめ」のような満面の笑顔。そんな、みねの笑顔と「おかめ」と「ひょっとこ」のお面が並ぶラストのページに、ぐっとくるものがあります。
効能
105歳で大往生した私の祖母を思い出しました。私の知っている祖母は、明るく、おしゃれで、チャーミングで、働き者で、何十年も日記を書いている人でした。
そんな祖母も、若かりし頃、7人目の子どもを授かった直後、夫を病気で亡くしています。女手一つで農家を切り盛りしながら、7人の子どもを育てた苦労は計り知れないものがあったでしょう。7人の子どもが成長し、孫が生まれ、やっと幸せになりかけたとき、今度は最愛の長男を病気で亡くします。祖母は、その当時の日記だけは、辛すぎて捨ててしまったと言っていました。
そんな私の祖母の口癖は「今が、一番幸せ」。絵本のなかで、みねも皆にこう言っています。「私は日本一の幸せ者だと思います」。いろんなことがあっての言葉ですね。一人の女性の生き方を感じると同時に、生きていくのに必要な「本当の強さとは何だろう?」と考えてしまう効能があります。
▼『おかめ ひょっとこ』
作:最上一平 絵:陣崎草子 出版:くもん出版
https://shop.kumonshuppan.com/view/item/000000002108?_gl=1*s4bno6*_gcl_au*MTg1OTk1MjkxNC4xNzMxMzcyMTcx*_ga*NjEzMjI4NTEuMTczMTM3MjE3MQ..*_ga_QQT2FDS92P*MTczMTM3MjE3MS4xLjEuMTczMTM3MjIwNy4yNC4wLjA.
サポーター
- 絵本セラピスト®︎/心理カウンセラー
プログラマー、シナリオライターなどを経て、3人の子育て中に絵本の読み聞かせのボランティアを始める。
2015年6月、乳がんの宣告を受け絶望のどん底に突き落とされる。そのとき、何気なく手にした一冊の絵本『でこちゃん』(つちだのぶこ作/絵 PHP出版)から深い「気づき」を受ける。絵本が大人に与える力に感銘し、その体験から『絵本セラピスト®️』となり活動開始。
病院や患者の会、子育てサロン、カフェにて大人の人に絵本を届けるセミナーを毎月開催。
エッセー風の絵本紹介ブログ、メルマガを毎日更新している。
プロフィール
最新の記事
- 自分らしく2024年11月15日〈絵本は心のお薬〉(10)『おかめ ひょっとこ』
- 自分らしく2024年7月15日〈絵本は心のお薬〉(9)『ゆっくりがいっぱい』
- 自分らしく2024年1月15日〈絵本は心のお薬〉(8)『ガラスのなかのくじら』
- 自分らしく2023年7月15日〈絵本は心のお薬〉(7)『おもいで星がかがやくとき』