自分らしく

〈絵本は心のお薬 〉(6)『ねこの看護師 ラディ』

絵本は子どものために書かれたものですが、大人にもいいものです。心に響いたり、深い気づきがあったり、忘れていた思い出がよみがえったり…。大人の心に効く絵本を、絵本専門士で絵本セラピストの大江美保子がお届けします。

ただ、猫の看護師として今日も働いている…そんなお話です

傷だらけで、痩せっぽっちで、毛も抜けた子猫が、動物介護センターに運び込まれます。
「もう、死をまつより手立てはなさそう」
「せめて、少しでも楽に死なせてあげよう」
そんな言葉が聞こえたのか、子猫はなんとか生きようとし、奇跡のように元気になり『ラディ』と名付けられました。

でも、奇跡はそれだけでなく…
動物介護センターに運び込まれる傷ついた動物たちに寄り添うラディ。大きな動物にも、小さな動物にも、暴れる動物にも、怒っている動物にも、死を待つ静かな動物にも。助かる動物ばかりだはなかったけれど、ラディはセンターに運び込まれる傷ついた動物たちにぴったりと寄り添います。

これは、ポーランドであった実際のお話です。あとがきには、怪我した犬に寄り添うラディの写真も載っています。ラディの存在はインターネットで広がり、海外からもテレビや新聞の取材がきて、世界から注目されるようになります。そして、動物介護センターの存在を知った人からたくさんの寄付が集まり、他の動物も助けられたそうです。優しさの循環は、エネルギーの循環にもなるのですね。

もの言わぬ動物に、そんな力があるのだろうか? わからないけれど、もしかしたら、あるのかもしれません。いや、きっとあるのでしょう。

ラディは何も答えません。ただ、猫の看護師として今日も働いているのです。

効能

怒り、痛み、苦痛、恐怖、絶望でいっぱいの傷ついた動物たち、そんな警戒心でいっぱいの動物に寄り添うラディ。ただただ、寄り添います。助かるものもいますが、助からないものもいます。ただ、黙って寄り添います。

小さいけれどラディの温もりは、傷ついた動物たちを安心させたのでしょう。ホッと、力が抜けたのでしょう。凝り固まった感情がほどけていったのでしょう。もちろん、痛みが緩和されたわけでも、治療されたわけでもありません。

ラディも、傷をなおそうとか、死を遠ざけようとか、痛みを取ってあげようとか…
そんなことは考えずに、「ただただ寄り添ったのかな?」と想像します。

黙って寄り添う。簡単なようで、とても難しい。でも、一番、必要なものなのかもしれません。

みなさんは、誰かに、寄り添ってもらった経験はありますか? 誰かに、寄り添った経験はありますか?

▼『ねこの看護師 ラディ』
文:渕上サトリーノ 絵:上杉忠弘 発売:講談社
https://bookclub.kodansha.co.jp/product?item=0000139013

サポーター

大江美保子
大江美保子
絵本セラピスト®︎/心理カウンセラー
プログラマー、シナリオライターなどを経て、3人の子育て中に絵本の読み聞かせのボランティアを始める。
2015年6月、乳がんの宣告を受け絶望のどん底に突き落とされる。そのとき、何気なく手にした一冊の絵本『でこちゃん』(つちだのぶこ作/絵 PHP出版)から深い「気づき」を受ける。絵本が大人に与える力に感銘し、その体験から『絵本セラピスト®️』となり活動開始。
病院や患者の会、子育てサロン、カフェにて大人の人に絵本を届けるセミナーを毎月開催。
エッセー風の絵本紹介ブログ、メルマガを毎日更新している。

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