自分らしく

うし

うし

うしの
うしろで
ゆっくりあるくのも
いいんじゃない

まいにち
こつこつすすめれば
ぬかさなくたって
いいんじゃない

ことしは
あわてず
せんりのみちを
ちゃくじつに

丑年に牛の詩を書きたいなと思いましたが、身近に牛が暮らしている環境ではないので、旅行でおとずれた牧場の牛を思い浮かべてみました。

私の頭のなかの牛たちはみな、落ち着いていてのんびりしています。やさしくて受容的なまなざしで草を食んでいます。自分の生活を振り返ると、なんだか毎日せかせかしているような気がします。少しゆったりした時間にさえ、次の何かの〆切りや仕事が頭をすっとよぎってしまいます。

そういえば5年ほど前のことでしょうか、飛び乗った通勤電車のなかで上手いこと空いた座席に座ったとき、ふと子育て中の自分を思い出しました。小さな娘と散歩をしていると、あっちの家のプランター、こっちの家のプランター、いろいろな花を見つけては寄り道し、猫がいれば答えが返るまで声をかけ、空に昼間の月を見つければ座り込んでぽかんと見上げたまま。「人生のなかで、あれほどゆっくりと歩いたことはなかったなあ」としみじみ思いました。

そして、3年くらい前でしょうか、90歳を過ぎ脚が悪くなって、もう、一人では病院に行くことができなくなった父と歩いていたときのことです。病院を目指して日陰を探しながら本当にゆっくりと歩いていると、いつもと違う所に来たような不思議な感覚を覚えました。「毎朝、この道を、駅を目指して一人ですたすた歩いているけれど、今日はなんだか風景や空気が違う。人生のなかで、こんなにゆっくり歩いたことがあったかしら」と。

時間に縛られない小さな子どもや、時間を無理に追わない歳をとった誰かと寄り添って歩くときには、きっと自分の日常スピードから自由になれるのでしょう。常に何かと競争しているような自分の毎日を少し見直して、牛と一緒に歩いているようなイメージで今年をスタートしてみようかな、とそんなことを思う1月です。

サポーター

みやもと おとめ
みやもと おとめ
詩人。
本業は体育大学・ダンス学科教員。大学生たちがダンスを好きになり、さらに自信をもって子どもたちにダンスを教えられる指導者として育つことを願い、教育と研究に取り組む。

プロフィール