自分らしく

〈絵本は心のお薬〉(9)『ゆっくりがいっぱい』

絵本は子どものために書かれたものですが、大人にもいいものです。心に響いたり、深い気づきがあったり、忘れていた思い出がよみがえったり…。大人の心に効く絵本を、絵本専門士で絵本セラピストの大江美保子がお届けします。

他人の価値観を押し付けられて、ちょっとムッとしたこと、ありませんか? 今日は、そんなときに効く絵本を処方します。

それが、ぼくのやりかた

ゆっくり、のんびり、おっとりと生活しているナマケモノくんとその周りの動物たちのお話です。

この絵本には、いろんな動物が出てきます。周りのスピード感と明らかに異なる生き方をしているナマケモノくん。やはり、目立ちます。だから、いろいろ言われます。

「どうして、そんなにゆっくりなんだい?」と質問されたり、ときに「なんで、そんなに怠けているんだい?」と問い詰められたり…

ナマケモノくんが考えて考えて、長いあいだ考えて出た答えは、「それが、ぼくのやりかた。ゆっくり、のんびり、おっとりが好きなのさ」。ただ、それだけだったみたいです。ナマケモノくんは、ゆっくり、のんびり、おっとりだけれど、決して、怠けているわけではありません。でも、そう見えてしまうのです。

ナマケモノくんの時間の尺と、周りの動物の時間の尺は違ったのです。みんな、それぞれの時間の尺のなかで生きている、ただそれだけなのです。

効能

これは時間に限ったことではありません。みんな、いろんな物をそれぞれ、自分の尺で測りながら生きています。お金の使い方、家族との過ごし方、働き方、夫婦関係、親子関係の考え方、etc。それぞれが、それぞれの尺のモノサシで測りながら生きています。

それはすなわち、その人の価値観、常識、当たり前といわれるものです。 「その人のモノサシ」は、その人の基準なので、それ自体に、良いも悪いもありません。でも…自分のモノサシで他人を測ろうとしたり、反対に他人のモノサシで測られたりする。これが、人間関係のトラブルの原因になることが少なくありません。

そもそも、単位が違うのだから、他人の尺で私は測れないし、自分の尺で他人を測る意味もないのです。もし、他人が己のモノサシを持って私を測りに来たら、ナマケモノくんのように「これが、私のモノサシなんです。この尺で生きるのが好きなのです」と言えるようになりたいですね。そして、反対に自分のモノサシで他人を測って判断することはやめたいなと思いました。

▼『ゆっくりがいっぱい』
作:エリック・カール 
訳:工藤直子 
出版:偕成社
https://www.kaiseisha.co.jp/books/9784033279008

サポーター

大江美保子
大江美保子
絵本セラピスト®︎/心理カウンセラー
プログラマー、シナリオライターなどを経て、3人の子育て中に絵本の読み聞かせのボランティアを始める。
2015年6月、乳がんの宣告を受け絶望のどん底に突き落とされる。そのとき、何気なく手にした一冊の絵本『でこちゃん』(つちだのぶこ作/絵 PHP出版)から深い「気づき」を受ける。絵本が大人に与える力に感銘し、その体験から『絵本セラピスト®️』となり活動開始。
病院や患者の会、子育てサロン、カフェにて大人の人に絵本を届けるセミナーを毎月開催。
エッセー風の絵本紹介ブログ、メルマガを毎日更新している。

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