自分らしく

〈今月の詩〉インスピレーション

インスピレーション

カフェでうたたねしていたら
夢に驚いて目が覚めた

夢の続きを考えていたら
夢は楽しい空想につながった

空想はあちこちふくらんで
そのうち妄想になる

妄想は時々暴走して
とんでもないところに行こうとする

たまにだけれど
妄想の中からひらっと発想が生まれ出る

発想はいつの間にか羽を伸ばして
体を抜け出そうとする

コーヒーの香りに紛れないうちに
つかまえなくちゃ

大学の総合体育館のエントランスホールは学生に開放されていて、空き時間や放課後から夜まで、自由にダンスを踊ったり、ヘッドホンで音楽を聴きながら創作をしたりしています。ときにはひとりで、ときには仲間と、コンテンポラリー、ジャズ、ストリートなどを踊っています。よく見ると決して順風満帆ではないらしく、悩みに落ち込んでノートに何やら書きつけているような姿もあります。自分の身体を動かしては考え、仲間の動きを見つめては考え、また壊しては新たに生み出そうとする創造的な空間が広がっています。

創造的といえば、画家であった叔父が夏に亡くなりました。手や眼などのうねるような曲線で表現されたモダンな画風や、ルネッサンス期の宗教画に見られる黄金を背景にしたテンペラ画などで知られている画家でした。遺された2冊のスケッチブックは病院で使用していたらしく、抽象的で不思議な色の絵が色鉛筆で描かれ、日付とサインが入っていました。寝たきりで身体の痛みがつらかったようですが、毎日毎日ひとつずつ似ているようで似ていない造形がつづられていました。

大学のダンサーたちも、叔父も、大作でなくても毎日少しずつ創造を重ねています。そういえば、詩を書き始めた17年ほど前の自分を振り返ると、通勤時間や休憩時間に周りを見回してはちょっとしたことをメモしていました。今よりずっと忙しい日々だったのですが、メモをだんだん詩の形にする作業が楽しく、また、形になってから夜な夜な推敲する作業が楽しくて、ひと月に10の詩を書いて薄い冊子にすることを継続していました。

それなのに、今は「なぜ移動時間や休憩時間にインスピレーションがわいてこないのだろう」と自分に問いかけてみたところ、以前は「さあ電車に乗る」「さあ休憩」と言う瞬間に、意識を切り替えて観察モード、インスピレーションキャッチモードに入っていたのかもしれないと思い当たりました。

さぼらずに毎日スケッチブックを広げた叔父のように、気兼ねなく動ける空間に自分をあえて移動させている学生たちのように、短時間でもいいから自分のモードを切り替えて再度創造的に生きようという気持ちになってきました。

サポーター

みやもと おとめ
みやもと おとめ
詩人。
本業は体育大学・ダンス学科教員。大学生たちがダンスを好きになり、さらに自信をもって子どもたちにダンスを教えられる指導者として育つことを願い、教育と研究に取り組む。

プロフィール