自分らしく

迷路

迷路

そのカフェには
迷路があります

キャッシャーから見えない
そこだけ
L字に引っ込んでいます

〆切間近のしごと
送信し損なっているメール
あと一枚で仕上がるレポート
言えそうで言えない告白

このカフェの行き止まりでは
時間がうろうろしています

すわってみれば
ちょっとした迷子になれますよ

ちょっとした迷路なら、美術館がそんな感じです。少し照明を落としてある落ち着いた空間を順路に従って歩いて行くのですが、小部屋から小部屋、たまに大きな部屋…次の部屋の様子はまだ秘密、という感じがわくわくします。部屋のセンターの展示に惹かれて思わずゆっくりしていると、他のお客さんたちといつの間にか逆回りになっていることもあります。

いつも美術展で感心するのは、その展示のコーディネートです。画家の生涯を追って、いくつかのテーマに分けてある展示をよく見かけますが、社会の変化のなかでどんな暮らしの変化があって、どんな家族とともにいて、思想や画風がどんなふうに変わっていったのかを味わいながら歩くことができます。各部屋の入り口に掲げられている文章を読みながら、まるで大きな一冊の物語のなかをくぐって歩いているような気持ちになります。

先日は、チラシで見かけたとてもきれいな色合いと不思議な模様に惹かれて、東京国立近代美術館『ヒルマ・アフ・クリント展」に行ってきました。スウェーデンの女性画家(1862-1944)で、抽象画の先駆者、アジア初上陸となる大回顧展とのことで話題を呼んでいます。

<1章 アカデミーでの教育から、職業画家へ><2章 精神世界の探求><3章 「神殿のための絵画」><4章 「神殿のための絵画」以降:人智学への旅><5章 体系の完成へ向けて>と、次第にスピリチュアルな表現に入っていくアフ・クリント。この展示の章立てに逆らえずにどんどん彼女の世界に引き込まれてしまいました。3章に展開された巨大なサイズの10点は、幼年期、青年期、成人期、老年期と4つの段階を追ってぐるりと並び、なかでも「老年期」2点の安定感のあるデザインに嬉しい気持ちがわいてきました。

美術館ではないのですが、友人にぜひ紹介したいのが東洋文庫ミュージアムです。ミュージアムとしてはそれほど大きくないのですが、光の具合といい落ち着いた大きな本棚といい、その雰囲気が大好きで、たまにふらっと出かけたくなります。折々の展示テーマに沿って貴重な東洋の資料が並び、そこに添えられている文章がまたウィットに富んでいて、思わずクスッと笑ってしまうのです。「どんな感じのキュレーターさんが作っているのかしら」と想像しながら楽しんでいます。現在、リニューアルのために長期休館中ですので、開館したらまた迷い込みに行ってみたいと思います。

サポーター

みやもと おとめ
みやもと おとめ
詩人。
本業は体育大学・ダンス学科教員。大学生たちがダンスを好きになり、さらに自信をもって子どもたちにダンスを教えられる指導者として育つことを願い、教育と研究に取り組む。

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