はじめはブルース・リー

ご記憶の方も多いかと思いますが、約45年前、ブルース・リーの「燃えよドラゴン」が大ヒットしました。鍛え抜かれた体で精悍な顔立ち、でも時々お茶目なブルース・リーに、日本の少年少女たちも魅了されました。

あちこちで「アチョー!」がこだまし、カンフーブームが大盛り上がり。これが私の中国武術との初めの出会いでした。そしてそれから35年、今から約10年前、第二の出会いがありました。

リーマンショックで壊れた心と体

2008年、大阪での単身赴任のとき、リーマンショックの大打撃に襲われました。営業部長の立場でしたが、なにをやっても前年の実績には程遠く、砂をかむような血が凍るような毎日でした。

翌年、東京に戻されましたが、大阪で通っていた鍼灸院の先生に「東京でも早いとこ、アンタの藤枝梅安を探さなあかんよ」と忠告されました。案の定、健康診断には表れないような体調不良とプチ鬱のような感じが続きました。最近では男性でも「更年期障害」と診断されることがあるようですが、なにやらモヤモヤした不定愁訴が断続的にやってきたのです。

引き寄せられるような出会い

ある日、東京・大手町のオフィスから近い内神田でランチをとり、ブラリ散歩をしていとき、目にしたのが日本健康太極拳協会の本部道場でした。「これかもしれない!」となにかに吸い込まれるようにして、その日のうちに入門しました。人と競わず、ゆっくりまろやかに動く「楊名時太極拳」との出会いです。

私が通っている教室には、毎回、男女合わせて20人前後の方が参加しています。立禅(静かに瞑想)、スワイショウ(両手を左右に放り出すように回す)から始まって、八段錦(健康体操)、そして24式太極拳の演武へと進んでいきます。

太極拳は運動神経が鈍くても、体力がなくても、誰でも取り組めるスポーツ。24の型を流れるようにつなげるには多少の努力はいりますが、パーツを体に覚えこませてしまえば、そこからは舞うたびに洗練されていきます。なにひとつ激しい動きはありません。ただ、その日の夜は寝つきが早く熟睡できるはず。きっと驚きますよ。

ゆっくり動くことで、普段使わない筋肉に静かに働きかけ、体幹を強化しているのです。またゆったりとした動きとともに行う呼吸は、自律神経の働きを整える作用もあるとのことです。

師の教え

思えば入社以来、「出世することこそが、最大命題」と一生懸命働いてきたような気がします。そのこと自体が悪いとは言いませんが、知らず知らず人と競うことで自らの心身に負荷をかけ続けていたんだと思います。

楊名時師の教えのなかに「我為人人 人人為我」という言葉があります。意訳すると、「私は人々のために尽くします。人のために役立つことは、結果的には皆が私を大切にしてくれる」というような意味です。ラグビーの「ALL FOR ONE ONE FOR ALL」の精神に似ていませんか。徒手空拳で誰でもいつでもどこでもできる太極拳は「自他相愛」の精神に通じ、心身を豊かに整えてくれる宝物だと思っている今日この頃です。