自分らしく

イチョウのこぶ

イチョウのこぶ

イチョウの古木に
鍾乳石のように
こぶが下がっている
何をためてるのだろう

枝も新芽も
上へ上へと伸びる中
ゆっくり ゆっくりと
重力に逆らわず
下に降りていく

ここにも あそこにも

人間の時間と
違う流れの中で
きっと何かいいものを
ためているに違いない

ひとつ前の職場のときは、古いイチョウ並木の下を毎日通っていました。28年間も通っていたので、「イチョウ」というワードで自分の書きためた詩を検索してみたら、驚くほどたくさんありました。

今まさに、新しいイチョウの葉っぱの赤ちゃんがちょっとずつその小さな手を開き始めています。ぎゅっとしたグーの形から、チョキチョキとなってきて、もう少しでパーがたくさんになります。まるでじゃんけんのようだと思い、嬉しくなったことを思い出します。

4月が深まっていくと、イチョウ並木はさらに蒼々として、緑がふりそそぐ音が確かに聞こえてくるようになります。立ち止まって心をあけはなしていると、緑のしぶきでぬれるような気さえしました。毎朝ここを歩いていたら気持ちがぐんぐん強くなる、それがまるでサプリメントのように感じられました。

秋にはもう一度、イチョウの並木道で祭のような盛り上がりがあります。黄色くなりそうな予感をみせてひらひらゆれていたり、いつの間にか街中を明るくするくらい黄色く燃えていたり。かと思うと、もうすっかり葉を落とした真冬のイチョウの木からいきなり私の肩に銀杏が落ちてきて、見上げてみたら他のみんなと一緒に落ちそこなったつぶつぶが固まって、残っているのを見つけたこともありました。イチョウ並木で、下がっているこぶを見つけたのは、その並木の先にある職場とお別れするころでした。

春夏秋冬、イチョウの変化を面白がり、その時々の自分の心を投影していたのだと、しみじみと思い返しています。きっと今も、イチョウ並木の古木たちは、そこを通う誰かを元気づけたり面白がらせたりし続けていることでしょう。

サポーター

みやもと おとめ
みやもと おとめ
詩人。
本業は体育大学・ダンス学科教員。大学生たちがダンスを好きになり、さらに自信をもって子どもたちにダンスを教えられる指導者として育つことを願い、教育と研究に取り組む。

プロフィール