自分らしく

ゆり

ゆり

花瓶にさしたゆりは
はなびらが開くと
雄しべの先の花粉を
すぐにはずされてしまいます

残された芯たちは
まつげのように
カールして涼しげで寂しげ

雌しべの方は
カマキリのような顔をして
しっかり前を向き
涙をひとしずくたたえ

命をつなぐ営みは
途切れたけれど
部屋にはいよいよ
甘い香りが広がります

いくつかのつぼみをつけた大きなゆりを飾っていると、順番に花びらを広げ、そしてまた順番に花びらを落としていきます。花びらを全て落とし終わっても、残された雌しべがこれまで全身で向いていた方向をきっちり指し続けている姿に、強さと誇りを感じます。

中学校の教員をしていたころに、帰国子女学級の担任をしたことがありました。4月は9人でスタートし、年度の途中で帰国してきたメンバーを加えて最後は16人のクラスでした。どちらかというと、他の学級の中学生に比べて思ったことをきちんと発言し、主張もぶつけ合うので、けんかもしょっちゅうありました。負けん気が強い人が多くて、合唱コンクールでは40人学級に負けないボリュームで『Ob-la-di Ob-la-da』を歌い上げました。

そんな活発なクラスに、ひとり、ほっそりとして物静かな少女がいました。みんなが盛んに発言をしているときには、たいてい微笑みながら聞いていて、自分から発言している姿をあまり見たことがありませんでした。面談をするときにも、ちょっと近づいて聞きたいと思うような小さくて優しい声でした。名前を「ゆりさん」といいます。

当時、学級通信にもうけた「Beautiful Name」というコーナーに、保護者の方から、名付けの由来とお子さんへのメッセージを書いていただいていました。ゆりさんのときは、「少々時代遅れな考えかもしれないけれど、やはり女の子は、“花”であってほしい。そんな思いを込めて有理と名付けました。(中略)たくさん悩んで、泣いて、笑って、楽しんで、そして、たくさんたくさん感動してください。あなたの心のなかに、真白い一輪の“ゆり”が花開くのを、楽しみに見守っていますから」と寄せてくださいました。

そんなゆりさんが、大学生になったある日、「今度大学の演劇公演に出ますので観に来てください」と連絡をくれました。大学のなかにある小劇場で、ゆりさんは素敵なドレスを着て主役を演じていました。よく通る美しい声が客席に響き、私は驚き、胸が熱くなりました。大きなゆりの花が堂々と咲いているようでした。

サポーター

みやもと おとめ
みやもと おとめ
詩人。
本業は体育大学・ダンス学科教員。大学生たちがダンスを好きになり、さらに自信をもって子どもたちにダンスを教えられる指導者として育つことを願い、教育と研究に取り組む。

プロフィール