乳がん生活:患者力:頼れるプロ

〈リンパ浮腫〉(3)運動時の3つのポイント

〈乳がん〉の術後に起こり得る不調のひとつ〈リンパ浮腫〉。手術によりリンパ節切除やリンパ節郭清を行うとリンパ液が溜まりやすくなり、〈リンパ浮腫〉を発症することがあります。発症時期や症状には個人差があり、発症しない方もいらっしゃいます。

包帯などによる圧迫下での運動療法

〈リンパ浮腫〉を発症すると完治は難しいとされ、上手く付き合っていくスキルを身に着ける必要があります。ただし、〈リンパ浮腫〉があるからといってできないことばかりになるということではありません。

〈リンパ浮腫〉の基本ケアのひとつに運動があります。これは、教科書的な位置づけでは「包帯などによる圧迫下での運動療法」とされています。

〈リンパ浮腫〉の圧迫を行う意義は、以下のことが挙げられます。
・起床して活動を始める前から圧迫をしておくことで、浮腫の体積を増やさないため
・リンパ管内のリンパ液は圧迫下においても流れがあることが確認されているため(血管では血流が阻害されていることが光超音波により確認:第4回〈リンパ浮腫〉治療学会総会 慶応義塾大学医学部の発表より)
・肌の保護になるため など

圧迫しながらでないと運動できないのか? 術前はできていたスポーツはできなくなってしまうのか? 運動しないとだめ? 〈リンパ浮腫〉を発症している方が抱えているさまざまな質問にお答えするためにも、運動で気をつけるポイントについて簡単にお伝えしたいと思います。

①運動の強さを少しずつステップアップしていく
②浮腫の様子を日々チェックする
③運動前後の浮腫ケアを必ず行う

①運動の強さを少しずつステップアップしていく

運動をすると筋活動が必ず起こります。ヒトは呼吸をしているだけでも筋活動がありますから、少しでも動けばそこには必ず筋力が伴っています。この筋活動があるとき、活動の結果として老廃物などが発生し、それらはリンパ液に含まれて代謝されていきます。つまり、運動をするとリンパ液の量は多くなりやすいと言えます。

〈リンパ浮腫〉のある方はリンパ液を流す力や回収する力が弱くなっていますから、通常の生活で生まれる以上のリンパ液が出てしまうと、回収するまでに〈リンパ浮腫〉がない状態に比べてとても時間がかかります。加えて、包帯圧迫や医療徒手リンパドレナージなどのサポートが必要な場合もあります。

そのため、どの程度の運動でどの程度のリンパ液の量が発生するのかを見極めながら運動の強度設定をしていく必要があります。

筋活動量のステージは大きく分けて3つあります。
[高]自分自身で重量負荷をかけながら身体を動かす
  ↑
[中]自分自身で身体を動かす
  ↑
[低]他者からの補助を受けながら身体を動かす

●術後数か月の方は、活動量の低い運動からスタート
これは筋活動量を増やすというよりは、リハビリのような位置づけで手術により硬くなりやすい皮膚や筋膜層を柔らかくするための運動とイメージしてください。筋に刺激を増やしていくことで「動くのだ!」という目覚まし信号を送るのです。

●日常生活を送れる体力に回復したら、中等度の活動量
治療後半年ほど経ち、日常生活を送れるくらいの体力に回復してきたら、中等度の活動量にしていきます(体力の回復時期には個人差があります)。また治療中でも、長期的な抗がん剤投与の予定がある方などは、下半身の筋力維持のために患部以外は中等度の運動をオススメする場合もあります。その方の体力レベルにもよりますが、筋活動によりオピオイドといわれる痛み抑制物質が放出されるので、辛くなりすぎない程度の運動をしておくと治療後の体力回復も早まります。

中等度の活動量は、日常生活を苦なく送るためには必要になってくる運動量だと考えています。もちろん日々生活しているだけでも、私たちの身体は「運動」をしていますので、家事などをこなしていくことも立派な運動になります。

●高活動量の運動を行うためには
何かスポーツをしたいと思ったら、高活動量の運動をこなしながらも〈リンパ浮腫〉をコントロールできる身体にしていく必要があります。このレベルまでいくには、〈リンパ浮腫〉の様子を日々チェックしながら、運動による筋の成長とのバランスを見極めていくことが望まれます。

②浮腫の様子を日々チェックする

まず、運動をする前に必ず浮腫の量や硬さなど、〈リンパ浮腫〉患部の状態を見ておきましょう。そして、運動直後や運動した日の夜、そして翌日まで浮腫の状態に変化がどのようにあるのかチェックする癖をつけてみてください。

なにかしら運動をした後に浮腫の量が増える(患部が太くなる、硬くなる)のは自然なことですから心配しなくても平気です。しかし、浮腫の量が急増する場合、または蜂窩織炎といわれる炎症状態になるとしたら、その運動量は現段階には不適切になるので運動量を控えましょう。

〈リンパ浮腫〉は一度悪化すると、1日や2日では安定しないので、なるべく悪化を防ぎながら段階的にできることを増やしていく忍耐が必要です。これがまどろっこしいのですが、浮腫が出るというのは生きている証ですので、「今日の身体も元気に活動しているんだなぁ」と少し気長に付き合う心持ちで進めていきたいですね。

「できないこと」に目を向けると切りがありません。それは、〈リンパ浮腫〉でなくても同じことなのです。それよりも、「できること」が増えているかに目を向けてみましょう。昨日の自分より今日の自分、先週の自分より今週の自分の方が少しでも多くの「できること」があれば、それは頑張った証拠です。続ければ、その「できること」はさらに増えていくでしょう。

運動して浮腫が出て、浮腫を引かせながらまた運動して筋を成長させて…筋ポンプ作用が強くなれば浮腫にも効果的です。3歩進んだら2歩下がってしまうかもしれないけれど、気長に歩んでいきましょう。

③運動前後の浮腫ケアを必ず行う

運動後の浮腫ケアは、普段のケアと気をつけるポイントが少し違います。これは運動に限らず、身体を動かす仕事をしている方の多くにも当てはまります。

チェックする浮腫の状態は、
・患部やその周囲に赤みがないか?
・浮腫が硬くなっていないか?
・皮膚表面の痛みがないか?(服が擦れるだけでもヒリヒリするなど)

これらは、浮腫が出て、ときには軽い炎症が起きている状態です。そんなときには次のことをオススメします。
・冷水にあてる
・包帯や医療用弾性着衣を着けて就寝する

〈リンパ浮腫〉患部ではリンパ管の破綻も起きやすく、リンパ液が溜まることで細菌の繁殖が起きやすく、患部の血管透過性が上がり赤みが出やすくなります。この状態のとき、皮膚表面上に赤みが見られる場合があります。広範囲に出るときもあれば、部分的にポツポツと出る場合もあります。

そんなケースでは、赤みの出ている部位に冷水を当ててあげましょう。炎症状態を抑える効果があります。オススメの方法は、お風呂に入りながらの冷水シャワーです。夏場は構わず冷水を当てられるかもしれませんが、冬場など寒い時期には難しいので湯舟につかりながら、腕だけ出して患部に冷水シャワーを当ててみましょう。

就寝時には、包帯または医療用弾性着衣での軽い圧迫をすることをオススメします。〈リンパ浮腫〉のセルフケアにおいて重要なポイントは、1日で発生した浮腫を翌朝まで残さないことです。翌朝、起きたときに浮腫が前日と同じまたはそれ以上に引いていたら成功です。ただし、皮膚表面に痛みがあり包帯などの着脱が困難である場合や、赤みが強く出ているときには圧迫をせず、腕の下にクッションなどを起き少しでも心臓より高い位置にして寝られてみてください(睡眠中に腕の下敷きはどこかへいっていることでしょう…)

また、医療徒手リンパドレナージの専門家を見つけておき、浮腫が増えたらそこへ通うことも浮腫ケアの一環です。運動と浮腫ケアの両輪で取り組むことで、より安定した状態を保ちやすくなるでしょう。

今回は、〈リンパ浮腫〉と運動についてお伝えしました。〈リンパ浮腫〉があるからといって、何かを諦めてしまうのはもったいないですね。もし何かやりたいことがあって、そのために懸念してしまうポイントがあるとしたら、専門家に頼って自分のやりたいことを実現させてみてください。

やりたいことの実現があなたをまた強くしてくれると、私は思います。そして何かに取り組み始めたら、必ず自分を褒めてあげてください。ひとつでもステップアップしたら、頑張った自分に拍手を送ってあげくださいね。

サポーター

平沼穂香
平沼穂香
フリー鍼灸マッサージ師/乳がんヨガ指導者。
女性がん経験者たちへの医療リンパドレナージ施術経験から、頑張る女性を応援したいという想いのもと、がん経験者へ安心で安全なリハビリの場・自分自身のための時間を設ける空間を提供するため、2021年4月に乳がんリハビリヨガ『BLUE ORGANIC SPACE』を開室。
将来はオーガニックホテル経営を含む、ライフスタイルの変革を提案するプロジェクト『BLUE ORGANIC LIFE』の設立を目指して活動中。

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