自分らしく

〈絵本は心のお薬〉(8)『ガラスのなかのくじら』

絵本は子どものために書かれたものですが、大人にもいいものです。心に響いたり、深い気づきがあったり、忘れていた思い出がよみがえったり…。大人の心に効く絵本を、絵本専門士で絵本セラピストの大江美保子がお届けします。

ほんとうのおうちは、ここではない

街の真ん中のガラスの水槽内に住んでいるクジラのウェンズデーの物語です。

ガラスのなかがウェンズデーのすべて。自分を真ん中にしてすべてが回っている暮らしでした。

ある日、ウェンズデーはジャンプをすると遠く向こうに見える“あおいもの”に気づきます。それが、何かは分からないけれど、“あおいもの”を見るとドキドキする。ウェンズデーは“あおいもの”を見たくて何度もジャンプする。何も知らない街の人たちは、ウエンズデーのジャンプを見て拍手喝采をします。

ある朝、水槽の近づいてきた女の子がウェンズデーに言います。「あなたのおうちは、ここではない。ほんとうのおうちは海よ」と…。

ウェンズデーは“海”を知らない。“海”のことを考えても分からない。だから、“海”を忘れようとするけれど、忘れようとすればするほど、なぜか、遠くに見えるあの“あおいもの”が見たくなる。

ウェンズデーはジャンプする。もうちょっと、高く!! これ以上とべないくらいに高く!! 思い切って高く!!

思い切って高く飛んだウェンズデーは、絵本を飛び出し、どこに行ったのか…。ちょっとした仕掛け絵本にもなっている美しい絵本です

効能

人間には環境が変化しても体内の環境を一定に保とうとするしくみがあります。これは、ホメオスタシス(生体恒常性)といわれているもので、健康的に生きていく上でとても大切な働きです。

だから、心理的にも、基本、変化が苦手です。今いる場所から、知らない場所へ飛び出すには、とても大きな勇気がいります。

でも、反対に「変化したい」「今の場所から未知の世界へ飛び出したい!」という衝動に突き動かされるときもあります。そう、このウェンズデーのように…。遠く向こうに見える“あおいもの”を見たときのウェンズデーのドキドキとした感情は、先祖から受け継いだ身体中の細胞が目覚め、騒ぎ出したのか、未来からの誘いだったのか…。

人生のターニングポイントについて考えさせられる効能がある絵本です。 皆さんにとって、理由もなくドキドキするものって何ですか? それは、もしかしたら人生に変化をもたらしてくれるものかもしれませんね。

▼『ガラスのなかのくじら』
作:トロイ・ハウエル&リチャード・ジョーンズ  
訳:椎名かおる  
発売:あすなろ書房
http://www.asunaroshobo.co.jp/home/search/info.php?isbn=9784751528419

サポーター

大江美保子
大江美保子
絵本セラピスト®︎/心理カウンセラー
プログラマー、シナリオライターなどを経て、3人の子育て中に絵本の読み聞かせのボランティアを始める。
2015年6月、乳がんの宣告を受け絶望のどん底に突き落とされる。そのとき、何気なく手にした一冊の絵本『でこちゃん』(つちだのぶこ作/絵 PHP出版)から深い「気づき」を受ける。絵本が大人に与える力に感銘し、その体験から『絵本セラピスト®️』となり活動開始。
病院や患者の会、子育てサロン、カフェにて大人の人に絵本を届けるセミナーを毎月開催。
エッセー風の絵本紹介ブログ、メルマガを毎日更新している。

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