自分らしく

エネルギー

エネルギー

真夜中の冷蔵庫で
にんにくのひとかけらが
ことり…と
倒れた

水を張った小皿に立てておいたら
急激に伸び出した
自らの根に押されて
倒れた

見えないものと
戦っている今
一晩で表れた白い根が
目にしみる

本格的な夏です。町を歩いていると、ピンク色のサルスベリの花がしゅわしゅわしゅわしゅわと湧き出しています。背の高い木が数本並んでいるところでは、ジジジジジジジジ、シャシャシャシャシャシャシャシャと蝉の声が、これも吹き出すように降ってきます。入道雲の大きな盛り上がりには、空で起こっているダイナミックな上昇気流が見えるようです。こうして歩きながら、エネルギーを与えてくれそうなものを探してみると、意外にたくさんあることに気づきます。

『舞踊のリズムと動き』という論説で大町倫子は、自然のなかにはいろいろなリズムがあり、「人間は自然のリズムとエネルギーに囲まれて生きている」と指摘しています。たとえば、つばめは「すごいスピードと大きな曲線が、空中に独特のリズムを作る」。波打ち際で感じるのは「うねうねと、盛り上がり、ドドーッと砕け、ザザザーと引く波のドラマティックな動きの」反復のリズム。「シダの葉や、巻貝の形に、空間の漸増・漸減のリズム」。自然の一部である人間は、自然のもつリズムを感じることで、エネルギーをもらえるのかもしれません。

他にも、大町は、人間の体のなかに存在する「鼓動」「呼吸」などのリズムや、人間の洗練された動作…たとえば「寿司屋の手の動き」「茶道の手前」「野球選手の好プレイ」などの「ハッとするほど美しい動作」に存在するリズムについても言及しています。

確かに、オリンピック競技をテレビで観戦していると、高いブロックに向かって何度でも果敢にスパイクを打つアタッカーのジャンプや、コートに落ちたかと思ったボールの下に差し込んだ手の甲からまだ生きているボールが跳び上がりつながるひとながれのリズムに、自分の鼓動が共鳴する事を感じます。

ぐっとためた卓球のラケットがしゅっと独特なカーブを描くと、そこから生まれたボールの軌道に、思わず声を発してしまいます。球技だけでなく、スケートボードにも、競泳にも、ハードルにも、空手にも、鉄棒にも…。観る競技、観る競技それぞれの独特なリズムに体と心が反応して惹きつけられていきます。

いつもと変わらない自然を味わうことと、スポーツ競技の観戦は、不安が拭えないまま猛暑が続いている今年の夏を乗り切るエネルギーになりそうです。

●引用
大町倫子(1991)舞踊のリズムと動き、舞踊学講義(舞踊教育研究会編)、pp82-91、大修館書店

サポーター

みやもと おとめ
みやもと おとめ
詩人。
本業は体育大学・ダンス学科教員。大学生たちがダンスを好きになり、さらに自信をもって子どもたちにダンスを教えられる指導者として育つことを願い、教育と研究に取り組む。

プロフィール