自分らしく

提案

提案

うつむいて
夜道を歩いていると
道路にハートが
ひとつ、ふたつ、みっつ…
え、ハート?

すぐ横で
サザンカが
花びら散らして
笑っていた

「顔あげて歩こうよ」

親友のことを思いながら歩いているときに、ふと、空を見上げたら、腕を伸ばしたような雲を見つけて、なんだかその雲が彼女の住む町の方へと私の気持ちを届けている気がしたことがあります。強い風が一晩中吹いた次の朝、黄金色のぎんなんがたくさん落ちていると、ぽっぽっと気持ちにまであかりがともったような気になります。

そんなふうに、いろいろな形や動きを見つけて人間の心はそれを何かに見立てて楽しめるという特技があるのだと思います。

舞踊家の花柳和先生から「見立てる」と言うことについて、お話しを伺ったことがあります。和先生は、扇子を持つ手を繊細に動かしながら、「ほら、さざ波」「ほら、大きな波になるとこんなふう」「桜がひらりひらりと舞い落ちる」と、魔法のように私の目の前にさまざまな風景を見せてくださいました。あっと驚くのは、扇子のかなめを持って斜め後ろにかざせば「遠くにそびえる富士山」。

見よう見まねで練習をしても、和先生のような優雅な動きは全くできませんが、中学生にこの扇子の所作を見せたことがあります。「日本の伝統文化に根付いている『見立てる』ということを創作ダンスでやってみましょう」という授業の冒頭です。

生徒たちには、扇子の代わりに、シーツ、フラフープ、長い幅広のゴム、バトン、色とりどりの布、カラフルなボール、カラーコーン、ロープなどをたくさん用意しました。それらで遊びながらそれぞれを、何かに見立てることができるのか次々に試します。

「これだ!」というイチ押しを見つけたら、1分くらいのダンス作品にします。目標は、ものも身体も場所も大きく使って表現することです。シーツをたくさん使いダイナミックになびかせて巻き込んで「雪崩から助かる人々」、カラフルなボールを卵に見立ててポトンポトンと転がしながら「ウミガメの涙」、幅広のゴムをあちこちに伸ばして怪しく動きながら「蜘蛛の糸」、バトンをマイクに見立てて全員が踊り回り「ショータイム」、カラーコーンを両手にはめてみんなでくっついてモゴモゴ動きながら「ウニ」などなど、中学生の想像力と創造力はつきることがありませんでした。

寒さもだんだん厳しくなるこの季節ですが、背中を丸めて縮こまるばかりではなく、歩く道々、自然のなかに楽しい形や動きを見つけて想像をふくらませて歩いてみようと思います。

サポーター

みやもと おとめ
みやもと おとめ
詩人。
本業は体育大学・ダンス学科教員。大学生たちがダンスを好きになり、さらに自信をもって子どもたちにダンスを教えられる指導者として育つことを願い、教育と研究に取り組む。

プロフィール