自分らしく

〈絵本は心のお薬 〉(4)『かさの女王さま』

絵本は子どものために書かれたものですが、大人にもいいものです。心に響いたり、深い気づきがあったり、忘れていた思い出がよみがえったり…。大人の心に効く絵本を、絵本専門士で絵本セラピストの大江美保子がお届けします。

わたくしはゾウがすきなのでございます

タイの山あいの村の話。ここでは、何百年もの間、男性が傘を作り、女性がその傘に「花と蝶」を描くという伝統がありました。そして毎年、村一番の絵付けをした女性が「かさの女王」として王様から選ばれていました。

少女ヌットも、お母さんやお姉さんに憧れて、傘に絵付けをしたくてたまらない。お願いをして、やっと許可が出ました。

お手本どおり、上手に「花と蝶」を描くことができて、家族に褒められます。

ところが…ヌットは描いているうちに、大好きな象を描いてしまいます。そのまま勢いで、象の絵の傘をたくさん作ってしまいます。「これは、遊びではなく、仕事なのだ」となだめられ、ヌットは仕事として象ではなく「花と蝶」の絵付けをしていきます。

でも、どうしても象の傘が作りたかったヌットは、仕事が終わり子どもたちが遊び始めると、自分であまった竹や紙で小さな傘を作り、象の絵付けをして窓辺に飾っていました。

さて…王様が「かさの女王」を選ぶ季節がやってきました。村の家々の前には、色とりどりの傘が並べられました。王様は、ゆっくり傘を見て回られ、今年の「かさの女王」を発表しようとしたとき…

ヌットの小さな象の傘に目を止められます。伝統の絵柄でもなく小さな傘。王様は顔を真っ赤にしているヌットに「なぜ、小さな傘を作ったのか? なぜ、花と蝶を描かなかったのか?」とお尋ねになられます。それに対してヌットは、王様の目を見て、勇気をだして答えます。「わたくしは、ゾウがすきなのでございます」と…

効能

「好き!」という、熱く、ひたむきで、やめることのできない、突き上げるようなエネルギーは、自分を楽しませるだけでなく、成長させ、周りを変えていきます。それは、さらに「遊び」を「仕事」に変え、「伝統」を新しく変えていく…そんな力もあるのですね。

「好き!」のパワーは計り知れないものを感じます。皆さんの「好き!」は、なんですか?

▼『かさの女王さま』
作:シリン・イム・フリッジズ 絵:ユ・テウン 発売:らんか社
http://www.rankasha.co.jp/book/taeeun/index.html

サポーター

大江美保子
大江美保子
絵本セラピスト®︎/心理カウンセラー
プログラマー、シナリオライターなどを経て、3人の子育て中に絵本の読み聞かせのボランティアを始める。
2015年6月、乳がんの宣告を受け絶望のどん底に突き落とされる。そのとき、何気なく手にした一冊の絵本『でこちゃん』(つちだのぶこ作/絵 PHP出版)から深い「気づき」を受ける。絵本が大人に与える力に感銘し、その体験から『絵本セラピスト®️』となり活動開始。
病院や患者の会、子育てサロン、カフェにて大人の人に絵本を届けるセミナーを毎月開催。
エッセー風の絵本紹介ブログ、メルマガを毎日更新している。

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