乳がん生活:患者力:頼れるプロ

〈リンパ浮腫〉(1)基本知識

〈乳がん〉の治療後に起こり得る不調のひとつに〈リンパ浮腫〉があります。〈リンパ浮腫〉になる原因とリンパ系への簡単な理解があると、〈リンパ浮腫〉に対するケアをより適切に行っていくことができるはずです。「私、リンパ浮腫かも?」「リンパ浮腫って聞いたことあるけれど、よくわからない」…そんな方の助けになれば幸いと思います。

〈リンパ浮腫〉とは

手術において、部分摘出と全摘出のどちらでもリンパ節切除あるいはリンパ節郭清を施された場合に起こり得る病態のひとつで、手術を施された側の腕に局所的な浮腫(むくみ)が起きている状態です。放射線治療や抗がん剤の影響でも起こり得ます。

〈リンパ浮腫〉には先天的リンパ浮腫と後天的リンパ浮腫があり、〈乳がん〉の治療後に起こる〈リンパ浮腫〉は後天的なものにあたります。

■〈リンパ浮腫〉を疑う症状例
・一部の関節周辺だけが浮腫む
・手や指だけが浮腫む
・腕の付け根だけが浮腫む
・腕全体が浮腫んでいるが、片側(手術した側)だけにみられる
・目に見えた浮腫みはないが、片側の腕や指に突っ張るような、張るような、動かしにくさを感じる(荷物を持つ時に握りこみにくいなど)

上記の症状は、〈リンパ浮腫〉を発症している可能性があります。症状は人それぞれ異なりますから、気になることがあればすぐに主治医またはリンパ浮腫外来の受診を試みましょう。

リンパ系とは?

リンパ節やリンパ管を含めたリンパ系というのは、私たちの身体内の循環システムを保つ上で欠かせない原始的なシステムのひとつです。血液が流れる動脈とか静脈のような血管系も循環システムのひとつで、血管系で流しているものは血液、リンパ系で流しているものはリンパ液になります。

リンパ系の各名称と役割

●リンパ管
リンパ液を流す管

●リンパ節
身体の各所に存在するフィルターのような役割で、リンパ管の分岐点となるところに多く存在

●リンパ液
身体内の各臓器が活動した末に生まれた老廃物などタンパク質を多く含む液体

リンパ液はどこへ流れていくの?

下半身・腹部・左上半身で発生したリンパ液は、左静脈角へ。
右上半身(上腹部あたりから上)で発生したリンパ液は、右静脈角へ。

静脈角というのは、鎖骨あたりにある全身をめぐる静脈が心臓へ戻る地点です。リンパ管は体中のあらゆるところからリンパ液を回収し、最終的に静脈角へとつながって心臓へとリンパ液を戻していく役割を果たしています。

手術後に〈リンパ浮腫〉が起きる理由

リンパ系の流れを電車に例えてみましょう。さまざまな沿線がリンパ管で、駅がリンパ節にあたります。また、ターミナル駅のように各沿線が集合してくるポイントもリンパ系には存在し、そこには比較的大きいサイズのリンパ節が多数存在しています。ターミナル駅のようなリンパ節の集合場所は人体の関節周囲にあって、そこへ各リンパ管から集合し、また分岐するものもあれば太いリンパ管へと合流していくものもあります。

手術においてリンパ節切除やリンパ郭清が行われるのは、いわゆるターミナル駅にあたるリンパ節の集合した箇所です。脇にある腋窩リンパ節は〈乳がん手術〉において切除する代表的な部位にあたります。

そこを切除あるいは郭清した場合、どうなることが予想されるでしょうか?

各沿線からターミナル駅へと電車は向かい続けるのにも関わらず、ターミナル駅は閉鎖されてしまっているので、大渋滞が起きますよね。その大渋滞こそが〈リンパ浮腫〉なのです。

しかし、人体にも振替輸送が行われており、ターミナル駅がなくなったからといってその先へ向かう術が根絶されるわけではありません。血管系に毛細血管があり身体中に張り巡らされているように、リンパ系も蜘蛛の巣のように身体中に張り巡らされており、たとえ本来向かうはずのリンパ節がなくなっていたとしても他の経路で最終地点へと向かうことはできるのです。

ただし、大きなリンパ節を経由せず次なる目的地へと向かう場合には、リンパ管の容量が十分ではない場合もあります。各沿線から流れてくる量は変わらないのにある場所から行く先の道(リンパ管)が細くなっていたら、どうしても渋滞は起こり得ます。

こうして〈リンパ浮腫〉は起きるのです。

〈リンパ浮腫〉はいつ発症する?

発症には個人差があります。手術後すぐに発症することもあれば、術後放射線治療中または抗がん剤治療中に発症することもあり、治療後何年も経ってから発症される方もいらっしゃいます。私がこれまでにお会いした方のなかで、発症までの治療後年月の最長は12年でした。これにはとても驚かされました。

治療を終了し、再発もなく10年以上の年月を過ごされてから、〈リンパ浮腫〉発症。まさか治療後にこんなことが起こるなんて予想もされていなかったと思います。その方と出会ったころからさらに12年前の治療をされていたころというのは、〈乳がん手術〉をする際の〈リンパ浮腫〉のリスクやその後のケアなどについて、病院ではあまり説明されていなかったのが現状です。医師でもあまり理解されていない病態のひとつでした。「がん治療との付き合いは病院を出た後にも継続されるのだ」ということをセラピストとして肌で感じた瞬間でした。

もちろん全く発症しない方も沢山いらっしゃいます。発症したとしても、早期の適切なケアにより改善していく可能性は格段に上がります。

リンパ浮腫を発症したらどうすればいいのか?

主治医への早期の相談、もし主治医とあまりお話しできないのであれば、看護師へご相談ください。もしくは理学療法士に会う機会のある方はそちらへ投げかけてみるのもひとつの手です。看護師や理学療法士のなかには「医療徒手リンパドレナージ」の資格を取得している方もいて、親身に話を聞いてくれるケースは多いです。

それでも納得のいく情報が得られなければ、「リンパ浮腫」「医療徒手リンパドレナージ」などのワードでネット検索をすると、全国のリンパドレナージセラピストを探すことも可能です。通えそうなところに一度ご相談してみてください。

軽度の〈リンパ浮腫〉は病院ではあまり取り合ってもらえず、「私が気にしすぎなのかな…」と思う方も多いですが、自分を信じて訴え続けてください。必ずその道のプロフェッショナルがいますから、自分を否定せずにぜひ頼ってみてください。

あなたのその「何かがおかしい」は、何よりも正しいのです。

まとめ

〈乳がん患者さん〉たちは治療を行うことで身体の目に見える変化が起こるのに加え、「リンパ浮腫になったら、私の身体はどうなるの?」と、途方に暮れてしまうかもしれません。ですが、早期のケアによりそれ以上の悪化を防ぎ、状態の安定も早くなります。

目に見える変化の起こるリンパ浮腫があっても、あなたはあなたで、私は私。いつだって自分の身体を第一に考えた決断をされますように。何かを決断したら、まず1番に自分を褒めてあげてくださいね。

最後までお読みいただきありがとうございました! 続編の「リンパ浮腫の基本ケア」「リンパ浮腫のある方が運動をするときのポイント」もお楽しみに。

サポーター

平沼穂香
平沼穂香
フリー鍼灸マッサージ師/乳がんヨガ指導者。
女性がん経験者たちへの医療リンパドレナージ施術経験から、頑張る女性を応援したいという想いのもと、がん経験者へ安心で安全なリハビリの場・自分自身のための時間を設ける空間を提供するため、2021年4月に乳がんリハビリヨガ『BLUE ORGANIC SPACE』を開室。
将来はオーガニックホテル経営を含む、ライフスタイルの変革を提案するプロジェクト『BLUE ORGANIC LIFE』の設立を目指して活動中。

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