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〈近畿圏枝毛線巡礼〉(8)南海電鉄 多奈川(たながわ)線

かつては淡路・四国へ渡る最短ルート

南海電鉄『多奈川線』は、南海本線『みさき公園駅』の5番線から発着します。2輛編成の短い電車が1時間に1本走るだけのひなびた枝毛線ですが、過去には主要路線として光り輝いていた時代がありました。

多奈川線が開通したのは、太平洋戦争中の1944年。当時潜水艦などを造っていた川崎重工泉州工場で働く労働者の通勤の足として開業しました。やがて終戦を迎え、1948年には工場の船溜まりを改修して『深日(ふけ)港』が造られ、ここから淡路島や四国へ渡る航路が開設されることになりました。深日港からの航路は大阪中心部から淡路島や四国へ向かう当時の最短ルートであり、多奈川線にも『深日港駅』が設けられ多くのビジネス客や観光客で賑わったといいます。1950~1960年代には難波から多奈川線への直通列車が数多く運転され、この頃が多奈川線の黄金時代だったと言えるかもしれません。

しかし1970年代には大阪港や神戸港からのフェリーや高速船にお客を奪われ、1998年の明石海峡大橋の開通によって航路は完全に廃止されました。これ以降、多奈川線は地元の人々を運ぶだけの地味なローカル線となっています。

多奈川線はみさき公園駅を発車するとしばらく南海本線と並走し、やがて右にカーブしながら坂を下って行きます。かつて賑わった『深日港駅』を経て右手に工場が見えはじめると、終点『多奈川駅』です。駅周辺は閑散としていて、お店らしいお店はありません。ちなみに多奈川駅は、大阪府最西端の駅だそうです。

小ぶりながら手入れの行き届いたお寺

多奈川駅からやや離れた高台に、浄土真宗本願寺派『正教寺(しょうきょうじ)』(写真)があります。すみずみまで手入れが行き届いた小ぶりなお寺で、本堂の前に長く伸ばされた松の枝が清々しい印象を与えます。浄土真宗ですから、当然ご本尊は阿弥陀如来のはずですが、本堂の障子が固く閉められていたので拝観はかないませんでした。

駅の周辺にお菓子屋さんを見つけることができなかったので、お土産はありません。

サポーター

老田道夫
老田道夫
フリーの編集/ライター。
主なフィールドはバレエ、鉄道、鉄道模型、70年代プログレッシヴ・ロック、古代史など。
近年は自費出版原稿のリライト、編集を主に手がける。好きな言葉は「棚からぼたもち」。

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