インタビュー

患者さんに聞く

〈がん治療〉による肌の乾燥には、 とにかく「保湿」が不可欠

山崎多賀子氏 対談写真

山崎多賀子 氏

美容ジャーナリスト。会社員、編集者を経てフリーに。長年、美容と健康、医療の取材・執筆を行う。
2005年、乳がんが発覚。抗がん剤による脱毛の経験を機に、外見と心と社会の関係に着目し、講演、美容セミナーもライフワークに。がん患者のアピアランスケアに携わる。NPO法人CNJ認定乳がん体験者コーディネーター、NPO法人キャンサーリボンズ理事。2010年よりNPO法人女性医療ネットワーク マンマチアー委員会を共同主宰、月に一度セミナーを開催中。

〈がん〉とはうまく付き合いながら、共に生きていく

〈ら・し・く〉
現在、日本では「二人に一人が〈がん〉を発症している」といわれていますが、医学の目覚ましい進歩は治癒に向かう患者さんをたくさん生み出しています。しかし、その一方で〈がん〉によって身体的・精神的な負担によって悩んでいる方もかなりいらっしゃる現実は見逃せません。私自身もそうでした。なにしろ、毎日のスキンケアすら負担に感じてしまうんですから…。そんな方のために「肌ケアでのサポートができたら」と思いつき、支援活動をスタートしました。それが、スキンケアブランドである『Sotto Satto』の立ち上げに結びついたんです。
山崎
私は〈乳がん〉を体験したときに抗がん剤による脱毛などの副作用でとても困った経験をもとに、〈がん患者さん〉向けの美容セミナーを10年ちかく開催するとともに、さまざまな美容情報を発信しています。〈乳がん〉が発症したのは2005年。治療としては右乳房を全摘出し、抗がん剤、ホルモン療法、分子標的薬で足掛け7年くらい治療を続けました。〈乳がん〉の治療は、一言でいえないくらい長い年月がかかりますよね。

〈ら・し・く〉
そうですね。私の場合、抗がん剤、放射線は1年間でしたけど、経過観察が10年必要と言われ、「治療は終わったとしても、まだまだ続く」ということをすごく実感しました。
山崎
つまり、〈がん〉を発症すると、そのときだけではなく以降も続けて共に生きていくことになりますね。

放射線治療後の保湿は極めて重要

〈ら・し・く〉
治療中にもっとも困ったことは何でしたでしょうか?
山崎
抗がん剤による脱毛とか皮膚の変化があって、外見がすごく変わったことが大きな悩みでした。その後、ホルモン療法に入りましたが、その途端、指の関節がすべて痛むようになって、朝、起床するとロボットのような感じでした。指に力が入らないから、物を掴めなかったですね。〈がん治療〉によって女性ホルモンがストップしてしまい、身体にすごく大きな変化が起きたんだと感じています。

〈ら・し・く〉
私は外見だけでなく抗がん剤による痺れも起こり、ずっと引きずっていました。さらに、身体のいろいろな箇所に痛みが生じるようにもなり、術後は左手が上がらなくなって可動域がかなり狭くなりました。背中に手が届かなくなったり、高い所のものを整理できなくなったり、まさに日常生活に支障が生じ続いていたんです。その後の放射線治療は、火傷と同じ状況。黒く焦げついてしまったような皮膚になり、なかなかとれなくなってしまいました。ただでさえ全身がすごく乾燥していた状況だったので、放射線を当てられると砂漠のようなカラカラ状態でしたね。
山崎
放射線を当てるだけで汗腺や皮脂腺が壊れ、自分で潤す機能は損なわれてしまいます。手術しただけでも内側をえぐり乾燥させるわけですから、ましてや放射線を当てるとなると深刻な状態になってしまう。ですから、その後の保湿は極めて重要だといわれています。

〈ら・し・く〉
そのときは保湿を行うために、一時話題になった『ヒルドイド』(ヘパリン類似物質クリーム)を処方してもらいましたが、伸びづらく使いにくかったので、なんとなく「ミルクローションのように伸びやすいものがあったらいいな」と思いました。

〈がん治療〉で起こる不具合は、加齢が招く不具合と類似

〈ら・し・く〉
病気になって初めて気がついた点は他にもあって、それまでにできていたことが難しくなったんですね。たとえば、服の着脱とか細かなものをつかむ、ボタンのはめ込みなど、細かな動作ができなくなりました。
山崎
そうですね。爪がものすごく脆くなっていて、宅配で届く段ボールに貼ってあるシールを剥がすとか、缶のプルトップやペットボトルの蓋をとるのがすごくハードな作業になりますよね。

〈ら・し・く〉
そうした不具合は〈がん〉になって初めて気づいたことですが、よく考えてみると高齢者の方などの悩みと同じなんですよね。「病気とか加齢を重ねるごとに、不便なことが多くなる」ということが分かり、〈がん患者〉のみなさんを支援するということはユニバーサルの考え方にも結びつくんだと考えるようになりました。
山崎
〈がん治療〉で起こる多くの現象は、加齢して起こる現象と共通しているということはよく分かります。「昔できたけど、今はできない」ということが〈がん治療〉のなかで起きて、「段取りがうまくできない」とか「時間がかかる」という苛立ちを実感しましたね。

〈ら・し・く〉
がん患者の多くは、復帰して長く暮らすということが高齢社会のなかで普通になってきているので、「ちゃんと快適に暮らしたい」という想いを再認識するに至りました。

インタビュー掲載日:2021年8月1日


本日は、美容ジャーナリストの山崎さんを迎え、〈がん患者さん〉にとっての美容についてさまざまなアドバイスをいただきました。なかでも「保湿した後、素敵なメイクで気持ちも明るくなる」というお話は、今後の私たちの活動に良き示唆を与えていただいたと思います。山崎さん、貴重なお時間をいただき、ありがとうございました。