自分らしく

地下鉄の演奏風景

足をとめた地下鉄の演奏

海外でもたびたび地下鉄を利用してきましたが、日本では見られない風景に足をとめることがありました。駅の構内や通路で行われる音楽演奏です。

かつて通勤で乗り降りしていたニューヨークの地下鉄では、ひとりから数人のバンドまで演奏しているのをよく見かけました。音楽はフォークやクラシックから民族音楽までさまざまでした。演奏するには許可が必要で、オーディションもあったようです。

急ぐ人たちも立ちどまるほど、聴きほれる演奏者もいました。なかには、その後、プロとして飛躍したアーティストもいたのかもしれません。

ロンドンの地下鉄は“チューブ”と呼ばれていて、ホームへの通路も狭く曲がりくねった形のトンネルが続きます。進むにつれて遠くからギターと歌声が聴こえてきたこともありました。独特の形をした地下トンネルならではの音響効果があったのでしょう。

地下鉄内の演奏は、ドイツのフランクフルトでも、フランスのパリでも見かけたことがあります。地下鉄は音楽家にとって最適な実演場所だったようです。

ニューヨークでは、ゲリラ的に車内に飛び込んできて演奏を始める輩もいました。運転中に演奏すると乗客からチップを集めて、次の駅でいなくなる、疾風のようなパフォーマンスでした。ほとんどの乗客は迷惑そうで、めったにチップを払う人は見かけませんでしたが。

地下鉄を歌ったサイモン&ガーファンクル

ひと昔前のニューヨークの地下鉄は、安全や清潔からはほど遠い悪評の高い場所でした。構内にはいたずら書きも氾濫していました。

60年代に活躍したフォーク・デュオ、サイモン&ガーファンクルは、『地下鉄の壁の詩』(A Poem On The Underground Wall)という曲で、地下鉄のいたずら書きを取り上げました。主人公は、最終電車が出た地下鉄の暗闇のなかで壁にメッセージを書き残します。その歌は、文字どおりアンダーグラウンドで人知れずに活動するアーティストたちの象徴に聴こえます。

そのサイモン&ガーファンクルのデビュー・アルバム『水曜の朝、午前3時』(1964年)のジャケットには、生粋のニューヨーカーだったふたりがマンハッタンの地下鉄ホームでギターをかかえてたたずんでいます。

ふたりが地下鉄で演奏したことがあったのかは定かではありませんが、そのジャケットは地下鉄で聴いた無名の音楽家たちのイメージとかさなるのです。

サポーター

a. ユージ
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