自分らしく

思い出がエネルギーになるとき

毎年冬になると、私はよく父のことを思い出します。それは父の誕生日が12月だからかもしれません。父は長い闘病の末30余年前に亡くなったのですが、最近、改めてじっくりと父のことを思い出す機会と出会うことができました。

父の仕事

日本人の海外渡航自由化は、1964年4月から。父はその前から海外に出張することが多い仕事でした。幼い私は母に連れられてよく羽田空港に見送りにいきました。今でも空港のデッキで撮った写真が残っていますが(もちろん白黒!)、父が遠くに行ってしまう寂しさが漂う表情をしている私。それを察してか、父は海外に滞在中、エアメールをたくさん送ってくれました。いろいろな国の見たこともない風景の絵葉書は、私の海外に対する好奇心を高めてくれたようです。幼い頃のあこがれの人が兼高かおるさんだったのもきっとここから。

そんな父は私が小学校に上がるタイミングで、どこか暖かいアジアの国への赴任が打診されたようです。しかし私の小学校が決まっていたこともあり、「ギリギリまで悩んで、結局断念した」と、後に母から聞いたことがありました。

父が会社を去るとき

そんな父が病に倒れ闘病生活が長くなり、とうとう仕事を辞めるときがきました。会社を去る最後の日、入院中の父に代わって私が父の会社に荷物を取りに行ったのですが、そのときの父のデスクの上の風景が今でも目に焼き付いています。デスクには一枚の絵葉書が立てかけてありました。それはどこかの南の島のたぶん夕暮れ。一艘の船も映っていました。父の荷物は整理され持って帰るだけにしていただいていたので、今思うと、事務所の方がその絵葉書だけはそのままにしてくださっていたようです。おかげで私は、そこから父がそのデスクで元気に仕事をしていたときの姿を感じることができたのでした。

父の思いとリンクする写真

そして最近、自分の机まわりの整理をしていたとき、そのときの絵葉書に似たものを見つけました。これはずっと以前、私が好きと感じて何気なく買った絵葉書。ずっと存在を忘れていましたが、今年一年、病気の治療から縁が切れない日々を送り、気持ちもなかなか上がらないなか、ふと見つけたこの絵葉書から静かなエネルギーをもらっていることに気づきました。それはきっと父も同じだったはず。なぜか「惹かれる見知らぬ地に、いつは訪れたい」とも思っていたのではないだろうか、そんなことも感じました。

昔、何気なく買った市販の絵葉書も自分の奥底にある感情と、また父への思いとも改めてリンクしたことで、今の私の日々の心のエネルギーにもなっているようです。

サポーター

杉原佳子
杉原佳子
色彩心理カウンセラー。カラーワークショップ・コーディネーター。
『色彩学校』の講師、事務局などを経て、現在は『アトリエNEST』(Facebookページあり)主宰。色彩の心理的効果をベースに、子ども、大人、シニアを対象に、また2007年に乳がんに罹患した経験から、病気経験者と共に心身のケアに役立つカラーワークショップやセッションを企画・実施。2016年に『色彩学校』の同期と立ち上げた『チーム彩時気』では、色、季節感、人の心を大切にしたワークショップを年に数回実施中。趣味は料理、手しごと、映画、ゴスペル、旅をすること。

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