自分らしく

想庵にて〜文庫だより『名所江戸百景』

浮世絵版画にはまってます

小学生のころ、お茶漬け海苔の袋に入っていた歌川広重の『東海道五十三次』の浮世絵カードにすっかりはまって、家に塩昆布や佃煮があるのにお茶漬け海苔をせがんでいました。でも同じ宿場のカードが何枚もたまるばかりで、結局、「五十三次すべてを集めるのは、とても無理だ」と断念。今思えば、あれが私の浮世絵の世界への入り口だったようです。カードは小さいながらも見ているとその場に行ったようで、昔の旅気分を味わっていました。そして、その後かなり大きくなって、同じ広重の『名所江戸百景』に出会ったのですが、そのときのショックと言ったら!

『東海道五十三次』にはない大胆な構図

自分の住んでいる東京が、江戸時代にはこんなだったなんて! もちろん今も残っている寺社や祭り、地形も描かれているのですが、趣きが違って、とても面白いんです。

子供のころの『東海道五十三次』カードの比ではないくらい、『名所江戸百景』にのめり込んでしまいました。展覧会に行ったり、関係の本を読んだり、浮世絵版画そのものを買ったりして楽しんでおります。

そんなわけで、想庵でも『名所江戸百景』をテーマにした文庫の会を開きました。

歌川広重『名所江戸百景』

『名所江戸百景』は江戸時代、安政3 (1856) 年から浮世絵師歌川広重が江戸のあちらこちらの名所を四季折々の風情で描いたものです。版画ですから絵師が元の絵を描き、それを版木に写し取って彫り色を重ねていくのは、それぞれの職人たちの手によるものです。そして彼らをとりまとめるのが版元と言われる今でいう出版社で、「江戸百」では魚屋栄吉という人でした。広重は安政5年に65歳で亡くなっていますが、その後も広重の名は受け継がれていきます。

『名所江戸百景』のすばらしさは、先にも書きましたが、まず何と言っても構図の大胆さが揚げられるでしょう。思いもよらないところからの視点、デフォルメされた部分、そしてあえてその景色の大事なところを隠すといった手法等々、彼の発想には驚くばかりです。そして彩色の美しさと面白さ。版画なので色を変えて摺ったり、ちょっと間違えてしまった色づけの部分があったりで、同じ絵でも比較して見るとなかなか面白いのです。また、解説本を読むと時代背景がわかり、絵に秘められた広重はじめ手がけた人々の気持ちや生活に思いをはせることができ、それも楽しいものです。絵は全部で118枚あるので、一つ一つをじっくり見ていると、時間のたつのも忘れてしまいます。

現地へ行ってみる

さて、先日、文庫参加者と一緒に『名所江戸百景』のコピー数枚を持って、現地視察に行ってまいりました。御茶ノ水駅で降りて、湯島の聖堂、神田明神、湯島天神、上野広小路、不忍池と歩きました。それぞれの場所で絵の視点に立ってみると、まったく違う景色となってしまったところが多いなか、わずかに残っている部分もあり、思うところ多い楽しく充実した旅となりました。

こんな本、並べました

●秘蔵岩崎コレクション 広重名所江戸百景/小学館 
●名所江戸百景 新・今昔対照/浮世絵太田美術館
●江戸切絵図で歩く 広重の大江戸名所江戸百景散歩/人文社
●謎解き広重「江戸百」/原信田実/集英社新書ヴィジュアル版
●赤瀬川原平が選ぶ 広重ベスト百景/講談社

サポーター

みうら ゆきこ
みうら ゆきこ
東京都出身。
〈がん〉発症を機に、都内の病院内がん患者サロンの立ち上げ・運営に関わる。
その後、同院内に『がん情報センター』が開設されたので、それまで勤務していた高校教諭の職を離れ、がん情報ナビゲーターとして病院に勤務(2022年3月まで)。
現在は、若い頃から親しんできた日本舞踊、江戸小唄、古典文学をはじめとした日本の伝統文化を紹介、楽しむ場『想庵』を運営。

プロフィール