自分らしく

祈りと歴史が息づく湖北

湖北地方。米原から奥琵琶湖エリアに至る湖の北側に

年に一度、地元の自治会や信徒総代、史跡保存会で守り受け継いでこられた観音さまが一斉に御開帳される日があります。その数約130体、とても一日ではお会いすることができません。

その日は、主に奈良時代から平安時代制作された仏像が自ら私たちを迎えてくださいます。収蔵庫で守られた国宝や重要文化財の十一面観音もいらっしゃれば、こぢんまりとした小さなお堂に無名のままいらっしゃる方までとさまざまです。なかには、地元の老人会の会員9人が交代でお守りし、法要や祭礼、清掃、参拝者に対応にあたっておられる観音さまもいらっしゃいます。

一躍、この地を有名にした小説。そして、白洲正子氏のお気に入り

青空をどこまでも見渡せる某集落の一画で、ボランティアガイドさんの説明を受けました。戦国時代の災禍や廃仏毀釈の折、当時の集落の人たちが仏像を水に沈め、土に埋め、家に隠して、あらゆる手段を用いて守り抜いたという事実。そして、この地に光を当てたのが井上靖氏の『星と祭』であること。また、白洲正子氏が渡岸寺の十一面観音像を「近江で一番美しい仏像」と評し、この地の魅力を発信されたこと。

とはいえ、まだまだ京都や奈良ほど観光地化はされず、ある集落は過疎化の一途を辿っているという現実も受け止めなくてはなりません。ただ、この土地で守り継がれた観音さまたちは、令和の時代を迎えてなお集落の誇りであり、信仰の対象であり、心の拠り所であることは変わらないようです。

たくさんの観音さまに向き合うと…

お堂の入り口は、参拝者の靴で溢れかえっています。小さなお堂で観音さまと対面します。目を閉じ、頭を垂れ、手を合わせます。硬くギューっと縮こまっていた気持ちが、柔らかく自然に解けていく感覚を覚えます。そして、いつの間にか自分自身と対峙していることに気づかされます。

一年に一度、普段の生活の場から離れ、無名に近い観音さまとお会いするのも素敵だなあと思える日を湖北で過ごした神無月の一日でした。

サポーター

田上ハル
田上ハル
東京都出身。
留学支援と日本語教育の両分野で活躍。留学分野では高校生の交換留学業界で25年以上、派遣と受け入れの業務を遂行。現在は、週4日、留学関係の仕事に従事。2017年に日本語教師資格を取得。日本語学校の他、地域のボランティアとしても日本語を教える。
1998年、父が膵臓癌で他界。趣味は仏像やJAZZの鑑賞、SMAP、美術館・博物館巡り。パワーの源は、美味しいお酒を飲むこと。

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