乳がん生活:患者力:家族と友人
Amazing grace
歌から呼び戻される記憶
♪ミジンコくらいにちいさくなって
♪あなたの手のひらの上を探検したい
♪こっそりとこっそりとあなたの生命線を
♪勝手に長くのばしてあげたい
TVから流れてきた歌詞を聞いた途端、電流を受けたような衝撃に身体が固まり動けなくなった。末期がんの夫が入院していた病室で私がやっていたこと、そのままだったからだ。その当時の私をまるで見ていたかのような歌詞にしばらく動悸が止まらなかった。
この歌詞は竹原ピストルさんの『Amazing grace』という楽曲の一節であることを後日知った。お世話になった方ががんで亡くなったときに創った曲だそうだ。
生命線が気になっていたのに
夫と付き合い始めたころ、ふと見た彼の掌の生命線が途中で途切れているのが気になり、本人には何も言わずに時々何気なく確認をしていた。10代のころから手相というものに興味があり、生命線が途切れることがどういう意味をもつと言われているのかを知っていたからだ。
結婚後もふと思い出した折に生命線を確認していたのだが、あるときに薄くはあるものの途切れていた生命線が繋がったことを見たときには心からの安堵を覚え、その後生命線の確認の機会は減っていった。
数年後、末期がんでベッドに横たわる彼の掌を久しぶりに見たとき、繋がっていたはずの生命線が途切れているのを見つけた。負担にならないよう気をつけながら、掌をなぞり生命線が再び繋がるようひたすら祈った。手相は変化すると言われているのに、一度繋がったことで、その後の確認をなぜ怠ってしまったのかを後悔しながら。
奇跡を願う気持ち
♪ミジンコくらいにちいさくなって
♪あなたのおなかの中に出陣したい
♪たとえ刺し違えようとも
♪たとえ刺し違えようとも
♪あなたを蝕む
♪がん細胞をぶっ殺してやりたい
これは『Amazing grace』の3番目の歌詞だ。生命線が繋がることを祈りながら、同時に私が思っていたそのものの気持ちが最後のパートで歌われている。きっと私だけではなく、誰しもが自分の最愛の人が〈がん〉という大病に侵されたときに願うことだろう。
今でも時々、生命線の確認をなぜ続けなかったのかを考えることがある。それは日々の夫との生活が当たり前のように幸せで、ずっと平穏に続くと思っていたからなのだろう。当たり前の日常が実は当たり前ではないことが起きている。新しい明日を無事に迎えられることに感謝する気持ちを大切にしていきたいと願う。
サポーター
- アクセサリー作家。
子どもの頃から「装う」ことに興味津々。外資系企業勤務のかたわら、全身のコーディネートに欠かせないアクセサリーづくりを独学で始める。大人ならではの装いのアクセントでありつつ、気負わずにさらりと気軽に身に着けられるアイテムづくりを目指す。
被爆者であった父の悪性リンパ腫、大腸がんの10年以上にも及ぶ闘病に寄り添い、夫をも膵臓がんで失うという経験をもつ。
プロフィール