自分らしく

〈洋楽ポップス回顧録〉(2)雨にぬれても Raindrops Keep Fallin’ on My Head

従来の“西部劇ソング”を完全に脱却したポップさ

1969年にリリースされた『雨にぬれても』(Raindrops Keep Fallin’ on My Head)は、ご存知のとおりアメリカン・ニュー・シネマの金字塔『明日に向って撃て!』の挿入歌です。歴史的な名作に用いられたことで、「大傑作ポップス」としての地位を確立したともいえます。

このシングル盤を買おうと思ったきっかけは、西部劇に用いられている歌曲であったこと。大学進学で都会に引っ越しするまで暮らしていたところには映画館と呼ばれる施設は一か所しかなく、上映される作品は日本の映画がほとんどでした。西部劇を鑑賞したのはTVドラマで、『ララミー牧場』『ローハイド』『西部二人組』あたりでしょうか。そんななか、新聞か雑誌で『明日に向って撃て!』の挿入歌が紹介されていて気になっていたのです。

レコードに針を落としてみると、“西部劇” からイメージしていた音楽とはまったく異なるものでした。“復讐”とか“決闘”という差し迫ったものはまったく感じることなく、プレーヤーから聞こえてきたのはとても軽快なポップス。「新しいタイプの西部劇は、こういう音楽で演出されるのか…」と漠然と思ったような記憶があります。

ディオンヌ・ワーウィックの推薦で起用されたB.J.トーマス

『雨にぬれても』は、ディオンヌ・ワーウィックのヒット・メイカーとして名を馳せていたバート・バカラックとハル・デヴィッドのコンビで書かれた曲です。そんなこともあって、ワーウィックはバカラックに彼女と同じセプター・レコード所属のB.J.トーマスが歌う『心の中まで』(Hooked on a Feeling)を聴かせて、『雨にぬれても』の歌手にトーマスの起用を推薦したそうです。

ただ、バカラックがトーマスの起用を決定するまでには他のミュージシャンにも打診していたとか。しかし、誰からもOKはもらえなかったといわれています。たとえば、レイ・スティーヴンスやボブ・ディランには「曲も映画も好きになれない」という理由でキッパリ断わられたそうです。

いいときにいい場所にいたおかげで、一番いい曲に巡り会えた(B.J.トーマス 談)

『雨にぬれても』への起用が決まったころ、トーマスは運悪く喉頭炎を患ってしまいます。最初の録音前夜、医者から「2週間喉を使うな」と指示されましたが、「ポール・ニューマン主演映画の主題歌を歌うのだから」と説き伏せます。しかし、治療を受けてスタジオに入ったものの仕上がりは散々。5回目のレコーディングでようやくバカラックを納得させたようです。

映画会社である20世紀フォックスの重役には「耳障りでひどい声が、むしろポール・ニューマンっぽい」と好評で、こちらからもオーケーが出ます。8週間後に完治した喉で歌い直したヴァージョンがシングル盤となり、その際にチャック・フィンドリーによる印象的なトランペットが曲の終演部を彩ることになりました。

トーマスによると、映画が公開されるまでは曲の評判は悪く、バカラックとデヴィッドの練れた曲づくりはむしろ仇になってラジオの反応も冷淡だったそうです。しかし、映画『明日に向って撃て!』(1969年10月 アメリカ公開/1970年2月 日本公開)が多くの人々の心に響くとともに『雨にぬれても』も大変な反響を呼び起こします。1970年1月3日付全米シングル・チャートにおいてランク・イン10週目で第1位に輝き4週王座を守ると、さらには70年4月に発表された第42回アカデミー賞で最優秀主題歌に選出されました(バカラックは最優秀スコアも受賞)。

▼雨にぬれても Raindrops Keep Fallin’ on My Head
https://www.youtube.com/watch?v=7kjIN5mEf44

サポーター

重森 光
重森 光
紙媒体・Webサイトの編集者・ライター。ひたすらロックとヨーロッパサッカーを趣味として湘南で暮らす。じじいバンドでは、ドラムを担当。

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