乳がん生活:患者力:家族と友人
いくつになっても装うことで気持ちを前向きに
米寿を迎えた母が歩行困難に
今年、母は89歳。被爆者である父が悪性リンパ腫、大腸がんを患ったため、その長い闘病生活を支え、自宅での緩和ケアを経て最期を見送りました。そのとき私は独りになった母に同居を提案ましたが、母は「今までずっと家族のために生きてきたのだから、ゆっくり独りで暮らしたい」と話し、独り暮らしを続けてきました。
ここ数年は心筋梗塞や高齢者がかかりやすい病により入退院を繰り返す日々のなか、日常生活においては自分の身の回りのことは自分で対処できていたところ、昨年2月、私の定年退職を待っていたかのように歩行困難となり、リハビリが必要となってしまいました。
身だしなみに気を配れなくなった母
父と家庭をもって以降、家計を支えるために母は長年パート勤務をしていました。贅沢品にはもちろん手が届きませんが、身の丈にあった女性らしい身だしなみは常に忘れない人でした。リハビリ生活が始まり、以前より頻繁に母と過ごす時間が増えてきた今、化粧っ気がなく、くすんだ色の衣服を身に着けた母に確実に老いが迫っていたのだと痛感しています。
自分の身体なのに思うようにならなかったり、痛みがあったりという状態なのですから、「見だしなみに気を遣う」といった余裕も生まれないのでしょう。しかし、何かしら装うことでリハビリ生活を前向きに過ごせないかと思い、パールやビーズをメタリック系の糸テグスで編んだネックレスをつくってプレゼントしました。このネックレスは軽く、汗をかく季節を問わずにも気軽に身に着けられます。
ちょっとした工夫で気持ちを華やかに
このネックレスの効果だとは思いませんが、歩行困難で引きこもりがちだった母が「親族のお見舞いを兼ねて故郷の長崎に行きたい」と言い出し、昨年6月に久々の家族旅行を実現しました。もちろんプレゼントしたネックレスを身に着けて。旅行前には「これが最後の旅行になると思う」といっていた母ですが、見舞い先では「また、来るからね」を連呼し、帰京するときには搭乗時間ぎりぎりまで土産を爆買い。旅行が身体に負担となってしまうのではないかという思いは杞憂であったと痛感しました。
このネックレスは、母がお世話になっている医療機関の看護師の方たちにも好評です。大袈裟なものでなくとも、ちょっとした装いで気持ちが前向きになれる…アクセサリーにはそんな魅力があると思うのです。
サポーター
- アクセサリー作家。
子どもの頃から「装う」ことに興味津々。外資系企業勤務のかたわら、全身のコーディネートに欠かせないアクセサリーづくりを独学で始める。大人ならではの装いのアクセントでありつつ、気負わずにさらりと気軽に身に着けられるアイテムづくりを目指す。
被爆者であった父の悪性リンパ腫、大腸がんの10年以上にも及ぶ闘病に寄り添い、夫をも膵臓がんで失うという経験をもつ。
プロフィール