乳がん生活:患者力:家族と友人
一杯のリンゴジュースが気持ちを緩めてくれた
体調を崩した私に、友人が送ってくれたリンゴジュース。長野の果樹園直送、『シナノスイート』や『サンふじ』など品種ごとに詰められた瓶は眺めているだけでも美しく、なんだか癒されました。すりおろした果肉が感じられるシンプルな美味しさ。その香りとのど越しの良さは、懐かしさを呼び起こすものでした。
幼いころの発熱
幼いころ風邪をひいて熱を出したとき、母がすりおろしてガーゼで濾してくれたリンゴジュースは何よりのご馳走でした。ひりひりする喉に冷たいリンゴジュースはとても気持ちよく、癖のないその味は食欲のないときにもすんなりと口にすることができました。
熱があるときの食事って難しいですよね。消化が良く、飲み込みやすく、なおかつ栄養のあるもの…。今だったら、レトルトのおかゆもインスタントの味噌汁もあるし、ゼリーやプリンもコンビニで簡単に手に入ります。昭和のあの時代、枕元まで運んできてくれる母の手づくりジュースの味は数十年たっても忘れられない懐かしいものです。皆さんにもそんな思い出、ありますか?
抗がん剤で食欲をなくした夫に…
リンゴジュースでもう一つ忘れられないのは、末期がん闘病中だった夫との思い出です。抗がん剤の点滴が始まって、さまざまな副反応に悩まされました。発熱、体中の発疹など次々に現れましたが、なかでも一番悲しかったのは食欲がなくなってしまったこと。食べることが大好きな人が、少ししか食べられなくなり残してしまう様は見ているだけでも辛く、何とか口にできるものをと考える日々でした。
そんなときに、福島に単身赴任していた同期からリンゴが1箱届いて…。「あ! そうだ、これだ! これならいける!」ガーゼを探して熱湯消毒、すりおろしたリンゴを絞って、氷を少しだけ入れて彼のもとに運ぶと嬉しそうな顔。「いいねぇ、こういうのが飲みたかったんだ」よと、コップ一杯飲みほしてくれたのです。
気持ちをほぐしてくれるもの
一杯のリンゴジュースが、気持ちまで緩めてくれました。ほのかな甘さと香りは、抗がん剤で弱った身体にもじんわりと効いてくれたと信じています。身体のしんどさ、折れそうになる心を救ってくれるのは、ちょっとしたきっかけ…。子どものころから馴染んだ味だったり、友達からの心遣いだったり。そんな助けがあるから、明日からもまた頑張れるのかもしれません。私も友人の優しさのおかげですっかり回復できました。
サポーター
- 笹田紀子作文レッスン主宰。
小中学生の作文指導、大学AO受験論文対策、就活ES添削など、書くことに自信をもたせるレッスンに10数年取り組む。幼小お受験指導では、若いご両親へ先輩としてのアドバイスも。
2011年、夫を末期の膵臓がんで見送る。抗がん剤、緩和ケアなど、共に歩んだ経験から闘病中のご家族の相談を受けることも多い。
趣味とする舞台観劇、宝塚やミュージカルなどからパワーを注入。
プロフィール
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