自分らしく

犬との暮らし(4)

毛皮族の夏

換毛期で年に2回ほど被毛を調節するとはいえ、毛皮族である犬たちにとって、夏は過酷な季節です。室内ではエアコンで涼しい環境のなかで過ごせるようにしてはいましたが、てんかん発作もちのシニア犬であるホームズの体調が夏は特に気がかりでした。

あるとき、友人から「ホームズも一緒にどうぞ」と軽井沢の別荘へ招待をいただいたことがきっかけで軽井沢の夏の快適さにはまり、毎年夏にはペットOKの貸別荘で1週間程度過ごすようになりました。終日エアコンをつけたままで生活する酷暑の東京に比べ、エアコンなしでも快適に過ごせることで「はぁ、はぁ」という荒い口呼吸も減り、なによりも一日中、家族だけでゆっくりと過ごせることで分離不安症の症状がでる機会もなく、楽しそうでした。

13才の夏に

もうすぐ13才となる直前に、ホームズに異変が起きました。起き上がることはできるのですが、起き上がっても真っすぐに歩けずに同じ場所でぐるぐる回ってしまうのです。病院で薬を処方してもらい多少は落ち着きを見せたものの、加齢によるもので完治は難しいとのことでした。

その夏も例年どおり軽井沢に行く予定を立てていたのですが、ホームズの体調によってはキャンセルせざるを得ないと半ば諦めていたところ、夏になって小康状態を保っていたことと、軽井沢での気持ちよさそうな姿を思い出し、思い切って出かけることにしました。ペットとの旅行は気軽に身ひとつでというわけにはいかず、特に夏の旅行は往復の車での移動中に、いかに涼しく過ごさせるかに最も気を遣います。毎年のことですが、その年はホームズの体調のことがあったため特に準備が大変でした。

ワンコの本心とは

全盛期からすると体重もかなり落ち、動作もかなりゆっくりとはなっていましたが、ホームズも体調を大きく崩すことなく、なんとか無事に軽井沢で休暇を過ごし、東京の自宅に戻ったときのことです。車から降りたホームズが、どこにそれだけの体力が残っていたのかと思うほど、ぴょん、ぴょんと嬉しそうに飛び跳ねたかと思うと、いつも使っている食器からお水をごくごくと飲み始めました。その姿を見た私たち夫婦はしばし呆然。1週間の休暇といってもサラリーマンとして働く夫婦が同時に休暇を合わせることはそれなりに大変で、しかもその年はホームズの体調不良も重なったため、旅行に行けたこと自体が私たちにしてみると努力以外の何物でもない状況なのに、「えーっ。軽井沢じゃなくて、この家がよかったのぉぉぉ???」と、突っ込みを入れたくなる状況でした。

犬好きの友人にこのときの話をしたところ、犬は飼い主に従順で飼い主と共に行動をすることを好むので外出も厭わないアクティブな動物と思われていますが、実はいつも生活をしているところに安住したいと思っている変化を好まない性質だという説があるとのことでした。夏の軽井沢を楽しんでいたのは飼い主の私たちだけで、本心は家にいたかったのか、いやいや、私たちと一緒だから楽しかったのか、さてホームズの本心はいかに。

サポーター

ひらい まさよ
ひらい まさよ
アクセサリー作家。
子どもの頃から「装う」ことに興味津々。外資系企業勤務のかたわら、全身のコーディネートに欠かせないアクセサリーづくりを独学で始める。大人ならではの装いのアクセントでありつつ、気負わずにさらりと気軽に身に着けられるアイテムづくりを目指す。
被爆者であった父の悪性リンパ腫、大腸がんの10年以上にも及ぶ闘病に寄り添い、夫をも膵臓がんで失うという経験をもつ。

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