自分らしく

〈バレエへの招待〉(6)トウシューズ

バレエの象徴は全体重を足先で支える

昭和の一時期、女の子の間でバレエ・マンガが流行したことがありました。それにともなって『トウシューズ』がバレエの象徴としてクロ―スアップされ、「これを履いて踊りたい」という憧れを抱く女の子も数多くいたように記憶しています。

そのトウシューズですが、これを履いたダンサーは、ピンと伸ばした足の先で立つどころか、片足でバランスしたり、挙句の果てにはジャンプや回転までしてみせたりします。いったい、どのような仕掛けになっているのでしょう。その答えはいたってシンプルです。

サテンでできたシューズのつま先だけが、樹脂などでガチガチに固めてあるのです。ダンサーは足先に適度な柔らかさをもった緩衝材をつけてから、シューズを履きます。つまりトウシューズのなかでダンサーの足の指は伸びた状態で、全体重が足の先に乗ります。

しかし我々のような素人がトウシューズを履いても、おそらく立つことすらできません。トウシューズを履いてきちんと動けるようになるには、長いトレーニングが必要です。まず、小学校の上履きのようなバレエ・シューズを履いてつま先で立つ練習から始め、先生のお許しを得て初めてトウシューズを履き、さらにトレーニングを積むのです。筆者の経験では、初めてトウジュースを履いた日のレッスンでは痛みで涙が出ました。

20世紀初頭にほぼ完成

トウシューズ(ダンサーは『ポアント』と呼ぶことが多い)が生まれたのは19世紀末で、イタリアのダンサーがつま先を固めたシューズで踊ったのをプティパが見ていたく感心し、『眠れる森の美女』の振付に取り入れたといわれています。

その後20世紀初頭に、ロシア人ダンサーのアンナ・パヴロワのアイデアをアメリカ人のサルバトーレ・カぺジオが実用化し、現代のトウシューズの形になりました。カぺジオは世界的なトウシューズ・メーカーとして、現在でも盛業中です。

ちなみに、誤解が多いようですが、クラシック作品では男性はトウシューズを履きません。ただ、足のトレーニングのためにレッスンで履くことは珍しいことではありません。

サポーター

加集 大輔
加集 大輔
お笑いバレエ・ライター。
子どもの頃からの憧れだったクラシック・バレエを30代から習い始める。この経験をもとにバレエ誌に寄稿するようになり、その後、バレエ関連のライターとして活躍中。

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