自分らしく

〈バレエへの招待〉名作紹介(11)『ドン・キホーテ』

スペインを舞台にした陽気で屈託のない物語

セルバンテスの小説『ドン・キホーテ』を題材にしたバレエ作品ですが、原作の1エピソードを翻案したもので、騎士気取りの老人ドン・キホーテはあくまでも脇役です。

バルセロナの宿屋の看板娘キトリは父のロレンツォから、金持ちのガマーシュと結婚するように強要されます。ですがキトリには、床屋のバジルという恋人がいました。二人は駆け落ちしてジプシーの野営地に逃げ込みますが、ロレンツォたちに追いつかれ、バジルは狂言自殺をはかります。キトリは「せめて冥途の土産にバジルとの結婚を許してほしい」とロレンツォに懇願しますが、なかなかウンと言いません。

そこへキトリを憧れのドゥルシネア姫だと思いこんでいるドン・キホーテが現れてロレンツォに槍を突きつけ、二人の結婚を許すように脅します。ロレンツォがやむなく結婚を認めると、バジルは元気に起き上がり、キトリの手をとるのでした。そしてバジルとキトリの結婚式が無事に済むと、ドン・キホーテと手下のサンチョ・パンサは、また旅に出るのでした。

楽しさと元気さにあふれた踊りの宝庫

3幕のなかにあらゆる種類の踊りがこれでもか、というほどに詰め込まれた、楽しさと元気さにあふれた作品で、すべての踊りが見どころといっても過言ではありません。

第1幕ではキトリやバジルの踊りに加えて、闘牛士たちの華麗で勇壮な踊り、村人たちのスペイン舞踊をベースにした踊りが楽しめます。

第2幕ではジプシーたちの野趣にあふれた踊りのほか、風車に突進して飛ばされ失神したドン・キホーテが、森の妖精たちと憧れのドゥルシネア姫の踊りに恍惚となるシーンが有名です。

第3幕の結婚式の場面では、キトリとバジルのヴァリエ―ションが特にみどころです。片手に扇を持ちながら、きびきびとした動きのなかにも優雅さと力強さを秘めたキトリのヴァリエーションは、コンクールでは必ず踊られるバレエ少女たちの憧れです。

サポーター

加集 大輔
加集 大輔
お笑いバレエ・ライター。
子どもの頃からの憧れだったクラシック・バレエを30代から習い始める。この経験をもとにバレエ誌に寄稿するようになり、その後、バレエ関連のライターとして活躍中。

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