自分らしく

想庵にて〜文庫だより『桂離宮』と『修学院離宮』

美的感性と職人技

想庵での月次文庫の会、今回は『桂離宮』と『修学院離宮』に関する本をいくつか並べました。この二つの離宮は江戸時代に皇族によって造られたもので、今でも参観申込みは宮内庁にしなければなりません。いくつかの建物とそれらを取り囲む広大な日本庭園。全体像もさることながら、どの部分を見てもそれを造ろうと考えた人の美的感性と、現実化した職人たちの技には感嘆するばかりです。

『桂離宮』は京都市街の西を流れる桂川のそばに、『修学院離宮』は京都の北東・比叡山麓の扇状丘陵地に広がっています。日本庭園によく見られる借景という手法を取り入れているので、所有地を越えて近くの木々や遠くの山並みまでもがひとつの絵として鑑賞できます。

また、川の流れを引き込んで滝や小川・池を造り、まさに自然そのものの姿と見まがうようです。そしてそれぞれの建物の外観は言うまでもなく、内部の棚・襖・障子や飾り金具などの意匠に職人の美意識と精緻な仕事ぶりがあらわれ、ひとつずつ見ていると時のたつのも忘れてしまいそうです。文庫に参加してくださった方々からもため息が漏れていました。

美の裏側の心

さて、そんなすばらしい離宮の写真を眺めていると、ただ美しいということに感動してばかりではなく、「こんなに贅を尽くして」「庶民とはかけ離れたお金の使いよう」などと批判めいた気持ちもわいてくるものです。そこで、離宮の造られた時代背景やいきさつを読んでいくと、そこには羨んだり批判したりする気持ちが薄らいでいくような内容が。皇族という身分に生まれながらも自由に振る舞うことができず、時の権力者に利用されるばかりの悔しい生涯をおくらねばならなかった運命。その悔しさとやるせなさがあのような美しい離宮を造る原動力になっていたのではないかと思えてきました。なんとも複雑な気分です。

今や観光名所のひとつとしてとらえられている『桂離宮』や『修学院離宮』。表面の美しさを鑑賞しつつ、それを造りだした人の心の内に思いを馳せて、いろいろな感想の出た一日となりました。

こんな本、並べました。
・『桂離宮・修学院離宮』 京都新聞出版センター 
・『桂離宮物語』 西和夫著 ちくまライブラリー
・『京の職人衆が語る桂離宮』 笠井一子著 草思社
・『修学院離宮』 森蘊著 創元社
・『桂離宮』 俵万智・十文字美信 他著 新潮社
・『修学院離宮』 田中日佐夫・大橋治三著 新潮社

付け足しですが…
日本庭園や和風建築が好きで、若いころから作庭、数寄屋造り、茶室などに関した本を眺めては楽しんでいました。想庵は年をとった母を私の家のそばにすんでもらおうと建てた家です。当然、母の意向を聞きながらですが、できる範囲で和の要素を取り入れました。わかっていたつもりでしたが、自然の素材や和風建築を手掛けることのできる職人さん、技術が現代ではとても少なくなっていて、できないことやできても多大な費用がかかるという現実に驚き、残念な気持ちを味わいました。残された文化財を守っていくのはもちろん、身の回りの自然や昔ながらの職人の技にもっと目を向けていこうと強く思いました。

サポーター

みうら ゆきこ
みうら ゆきこ
東京都出身。
〈がん〉発症を機に、都内の病院内がん患者サロンの立ち上げ・運営に関わる。
その後、同院内に『がん情報センター』が開設されたので、それまで勤務していた高校教諭の職を離れ、がん情報ナビゲーターとして病院に勤務(2022年3月まで)。
現在は、若い頃から親しんできた日本舞踊、江戸小唄、古典文学をはじめとした日本の伝統文化を紹介、楽しむ場『想庵』を運営。

プロフィール