自分らしく

贅沢すぎる悩み

宅配便で桃が届く。ふたを開けると、あの甘い香りがいっぺんに飛び出してくる。そっと触ってみる。これはもう食べごろだ。同封されたメモによると、食べる前30分ごろに冷蔵庫へ入れると一番美味しいらしい。

桃は剥くのが面倒ではある。すうっときれいに剥けるものもあれば、ナイフで林檎みたいに剥いていく場合もある。なるべく果肉に傷をつけないよう心を配る。食べやすい大きさに切り分ける段階になると、足元にはビーグル犬と、1歳になったばかりの孫が…。どちらも桃が大好き。果汁たっぷりのあの甘さを知っている彼らは「早く早く」と私をあおる。

白桃の豊潤な甘さ、あかつきや黄金桃の爽やかでありながらこっくりした旨味。どちらも捨てがたい。毎年、岡山の親せきから送られてくるのは清水白桃、薄紙で包まれ桃の王者のような風格がある。大事に育てられたのだろうなあと思いつつ、堪能させてもらう。

今年はさらに岡山からまた別の白桃が一箱届いた。そしてその翌日、「生ものが届きます」という宅配便の連絡があり、「まさか桃だったりしてね…」と笑っていたら、予言どおりとなってしまった。こちらは福島の赤く色づいたちょっと堅めの桃で、日持ちもしそうだ。そしてそのまた翌日、こちらも毎年親友が送ってくれる長野の桃がまた届いた。うわぁ、15個もある。何とかせねば…せっかくの美味しい桃を美味しく食べなくては!!

お隣のおばあちゃま、お世話になっているペットホテルのご主人、息子のところ、美容院へもおすそわけ。それでもまだまだある桃。普通に食べるほかには、コンポートか桃の冷製パスタか。とりあえず、カッペリーニを固めに茹でて、オリーブオイルにレモン汁、塩コショウをあわせて桃と和える。ちょっと贅沢に生ハムも乗せていい感じにでき上がった。街のイタリアンではこんなに入ってないだろうというくらいたっぷりの桃だ。

桃をお届けしたお隣からは、茨城からの茄子をいただいた。「こんなものしかなくて」と恐縮なさるおばあちゃまと久しぶりに立ち話をした。夕方になってほんの少し暑さの和らいだ時間での立ち話。90を超えて一人暮らしをされる先輩のしっかりしたお姿に、こちらの方がしゃんとせねばという気になる。1週間に4箱という贅沢すぎる悩みも、桃の短い旬ならでは。さて、残りの桃をどうやって美味しく食べるか…。

サポーター

笹田紀子
笹田紀子
笹田紀子作文レッスン主宰。
小中学生の作文指導、大学AO受験論文対策、就活ES添削など、書くことに自信をもたせるレッスンに10数年取り組む。幼小お受験指導では、若いご両親へ先輩としてのアドバイスも。
2011年、夫を末期の膵臓がんで見送る。抗がん剤、緩和ケアなど、共に歩んだ経験から闘病中のご家族の相談を受けることも多い。
趣味とする舞台観劇、宝塚やミュージカルなどからパワーを注入。

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