乳がん生活:患者力:頼れるプロ

〈乳がんサバイバーに運動を、もっと安全に〉
(2)「がんサバイバーの運動=生活習慣病の改善運動」でいいの?!

術式や治療方法によっては、運動を大きく妨げ安全性を損ねる要因になることも

乳がんや前立腺がんなどの発症要因の一つとして、生活習慣病が挙げられます。ですから体重をコントロールし、高脂血症、高血圧症、糖尿病などを改善する有酸素運動や筋力トレーニングを習慣的に行うことはとても大切になります。しかしながら、がんサバイバーはこれら生活習慣病の素因に注意するだけでなく、もっと考慮しなければならないことがあるのです。

それが、術式や治療方法(特に化学治療)、そして個々が抱える既往症です。すべての治療が終わっても、術式や治療方法によっては何年経っても副作用を残したり、また晩期障害を引き起こすこともあります。これが運動を大きく妨げ、運動の安全性を損ねる要因になることがあります。

下肢に強い末梢神経障害を起こしているサバイバーは、転倒のリスクに注意を

私は、抗がん剤ドセタキセルの使用によると思われる末梢神経障害を足先に起こしています。化学療法による末梢神経障害は、手足の疼痛やしびれなどの感覚喪失が特徴であり、ときには運動を支配する神経を傷つけると、生活の質を著しく下げる重篤な有害作用なります。テキサス大学MDアンダーソンがんセンターの研究グループは、「重度な末梢神経障害では、自動車の運転時にペダルを踏む圧力を足先に感じることができず運転できなくなる場合や、バランス感覚がなくなって歩行器を使わなければならなくなることもある」としています。

私は抗がん剤治療を終えて3年ほど経ちますが、足先のしびれは消える兆候がありません。そのため足先の踏ん張りがきかず、転倒の不安をいつも抱えています。UCLAジョンソン総合がんセンターのGanz教授による調査では、AC療法の抗がん剤治療を行った乳がんサバイバーは、2年後にも末梢神経障害が49.8%残っているとしています。下肢に強い末梢神経障害を起こしているサバイバーは転倒のリスクがありますから、単に「有酸素運動としてジムのランニングマシーンで早歩きを」といわけにはいかないのです。体力筋力を高めるためにジムに行き、そこで転倒して骨折なんてしてしまったら本末転倒です。

サポーター

稲葉晃子
稲葉晃子
元全日本女子バレーボール選手。現役引退後は、全日本女子バレーやさまざまな競技団などで選手育成に従事。2012年、ロマージュ株式会社を設立。2017年、乳がん発症。左乳房全摘とリンパ郭清、抗がん剤、放射線治療、1年間の治験を終え、現在はがん専門エクササイズトレーナーとして運動指導を行いながら、オリンピックをめざす陸上選手の強化にも注力している。

資格:米国スポーツ医学会・米国がん協会認定Cancer Exercise Trainer / 米国NATA認定Athletic Trainer


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