自分らしく

マスク

マスク

マスクをすれば
街からかくれたつもり
つり革につかまると
夜の窓ガラスに映る真っ白な仮面

瞳だけが見えているけれど
悲しいのか怒っているのか
疲れているだけなのか
自分のことなのによくわからなくなる

私の隣にも 少し向こうにも
真っ白なマスク

仮面の下で
ついた ため息を隠し
ふとした ほほえみを隠し
退屈なあくびも そっと隠し

並んだ仮面たちは
電車のブレーキに少し傾いて
また戻り
少しずつ駅で降りていく

5年前に珍しく風邪を引き、したこともなかったマスクをして、少し遅い時間の電車に乗って帰るときのことでした。同じ車両に乗っている人々はみんな無言、電車の走る音のみが耳に入ってきます。ぼおっとつり革につかまって窓を見つめていると、外が明るいところでは外の世界が優先になり、外が暗いところでは車内が映し出されます。いつの間にか電車の外と中の境目が曖昧になっていくような不思議な気分になるのです。

時折、逆方向の電車とすれ違う際には風がバンと窓にあたり走行音も大きく響いて、何だかスピードが急に上がったように感じられます。すれ違う電車の中でマスクをつけて立っている人の姿が一瞬見えたような…そんなはずはなくて気のせいなのでしょうか。そして再び外が暗くなり、窓に映る顔がふと私だったと気づき、よくよく見てもマスクの陰で何を考えているのかわからない顔になっていることに少し驚いたものです。

あのときには想像もしませんでしたが、今や電車の中の全員がマスクをしている世界です。最初は怖く感じられたグレーや黒のマスクにもようやく慣れてきました。混雑している車内で立っているときには、目に見えない敵を意識していつも何だか緊張しています。つり革や手すりにつかまるまいと、進行方向斜め向きに足を置いて慎重に立っているせいで、窓ガラスに映った車内をぼんやりと眺めることはあまりなくなっています。

サポーター

みやもと おとめ
みやもと おとめ
詩人。
本業は体育大学・ダンス学科教員。大学生たちがダンスを好きになり、さらに自信をもって子どもたちにダンスを教えられる指導者として育つことを願い、教育と研究に取り組む。

プロフィール